ムダを省く効用の本質
ビジネスでよく耳にする評語「バリューを上げよ」。何か付け足す方向に流れがちだが、価値を生まないムダを省くのも極めて有効な手段。今回は、一流の視点を紹介・・・
- 岡部騎手いわく、「武豊騎手の最大の武器はミスをしないこと。騎手は、レース中に判断ミスを含めよくミスをする。単純な話、ミスをしないことが勝利への近道。そのため、加点法ではなく減点法で考えるのが適している。無敗の三冠馬ルドルフの育成方針も含め、何をすればプラスになるかより、マイナスに作用しそうなことをいかに省くかが重要。」
- 羽生義治 棋士いわく、「将棋とは、マイナスの手ばかり。この手をやるとマイナス10点、あれはマイナス50点、別の手だとマイナス100点というゲーム。ミスを犯してしまうのはしかたない。だから、マイナスになる手を指さなくなるだけでもかなり強くなる。」
- 相場の格言いわく、「半分損したら、それを取り返すには2倍にしなければならない。」
- 耶律楚材いわく、「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」。一つの良いこと新しいことをやるよりは、一つの悪いこと不要になったものを取り除いていく方が効果的。
- トヨタ生産方式の発明者 大野耐一氏いわく、「顧客の注文を受けてから現金を手にするまでの時間の流れを見て、付加価値を生まないムダを取り除くことで、その時間の流れを短縮する。作業工程を改善する場合、付加価値を生みだす生産設備をいじくりがちだが、付加価値を生む行程の割合は通常、非常に小さいので、その部分を改善しても大した効果はでない。付加価値を生まないムダを排除するという、もっと大きな改善チャンスに多くの人は気づかない。」
- 安岡先生いわく、「われわれの欲望というものは陽です。対する内省、反省というものは陰であります。欲望がなければ活動がないわけですから、欲望はさかんでなければなりませんが、さかんであればあるほど内省というものが強く要求されます。内省のない欲望は邪欲であります。内省という陰の働きは、『省みる』という意味と『省く』という意味があります。内省すれば必ずよけいなものを省き、陽の整理を行い陰の結ぶ力を充実いたします。人間の存在や活動は省の一字に帰するともいわれる所以であります。この省の字は、『かえりみ』『はぶく』と読み、解釈しなければなりません。どちらか一方では半分落ち。」
ムダを省く逆説的発想
- マキャベリいわく、「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」
- 名将 森祇晶 元西武監督いわく、「努力して先が読めるようになれば、成功は間違いなしというより、むしろ努力すれば大きな失敗は免れる、連敗は防げるということを信じたい。努力には失敗に備える保険のような側面がある。」
- キリスト教「自分にして欲しいことを他人にしないさい」 vs. 仏教・儒教「自分がして欲しくないことを他人にするな」。キリスト教の本質、愛「隣人を愛せよ」とは、まず自分を愛し、自分を愛するように隣人を愛せよ、という意味。しかし、愛の本質は、自己愛=エゴ=愛欲。それはときに相手を束縛し、嫉妬し、真の姿が見えなくなる盲目や失恋などの苦しみを生むので、解脱という真の安らぎを求め世間的な価値観から離れ出る「出世間」仏教では、自分本位になりがちな愛はお節介として嫌う。そこで逆説的に、お節介にならないよう「嫌なことは相手にもするな」という最低限度の規律を設定。あるいは愛することを他人にも拡大するのではなく、その裏返しとして、「みな自分が愛しい、だから他人を害するな」。愛の対語として仏教では、利己心や執着心のない愛 = あらゆる人を救いたいという願い「慈悲」があるが、そこでは自分を苦しめる要素は極めて少ない。
(「慈悲」に相当するのが、儒教では「仁」。顔淵が仁とは何か尋ねたところ、孔子いわく、「克己復礼」。己の欲望を抑えて、礼に復すとは、自己愛を抑制し「忠」、他人への思いやり「恕」を持って、それを形に表す「礼」ことで、自己愛というエゴがなくなり、己と相手が対等になれる。人を愛すること+思いやりの心=自己愛というエゴのない対等な関係=仁。)