アプリのクラウド化-II

「アプリケーション」プラットフォームの時代へ

以前ふれた「インターネット大潮流-V」のように、主戦場は、”自力”で「コンテンツ」を囲い込む閉鎖的・小脳競争から、”補完者”の衆知を集め戦場をより大きな「プラットフォーム」に求めた開放的・大脳競争へ移行。

好調なiPhone/ iPad を追随して他社は類似製品を提供しているが、本家より多少性能が良くても、iTunesなどアップルストア =「アプリケーション・プラットフォーム」を持たないと、ハードの塊でしかない端末はコモディティ化し、価格競争に巻き込まれる宿命にある。これらのことに最初に気づいたのがApple、少し出遅れたけどまだ射程距離圏にいるのがGoogleSNSの分野ではFacebook

Google の戦い方

有料でも需要がありそうなB2B向けに、Google Apps というビジネスソフトを提供。具体的には、Gmail、 Document (Word, Excel, PowerPoint, PDF各種ファイル管理)、Photo(Picasa)、Video (社内ビデオの管理) 、Site (自動的にSEO化され簡易な告知に有効) など。アメリカでは政府や教育機関へも注力。原則、ソフト分野は参入しない方針だが、IEだとしょぼいのでGoogle Appsへのコミットメントとして、サクサク動くGoogle Chromeを投入。

ポイントは、Salesforeなど強敵がいるCRMERP分野は手をつけず、Google Appsという「アプリケーション・プラットフォーム」で協力者の参加を呼びかけている点。

クラウドアプリの黎明期

クラウド三種の神器」ともいわれるのが、メモって、保存して、閲覧するサービス。中でも、プラットフォーム化「アプリケーション・プラットフォーム」へ進化する可能性を秘めたサービスが、メモという汎用性を秘めた切り口を持つEvernote

Evernote: 日々の情報や大切な思い出を記憶する「第2の脳」

1) まずは概況から・・・

  • 本格スタート(β版): 08年6月
  • Funding: $45.5M (Sequoia, DoCoMo, Morgenthaler Ventures など、Series C段階)
  • ユーザー数: 4M以上 (USA 57%, JPN 18%, Spain 4%, UK 3%)
  • 収益源: 使い続けるほど多容量が必要 (はまる顧客を自動的に選別)-> 広告費を殆ど使わず無料から月$5有料サービスへ巧妙に誘導 (freemium model)
  • 有料顧客: 8万超 (全体の約2.2%)-> 利用期間に比例して増加 (e.g. 初期0.5%, 1年継続で8%、2年継続で20%)-> アクティブ利用者に対し、月間変動費9セント vs. 売上25セント-> 1年半前から売上がコストを上回る構造-> 早期に売上増加率18% がユーザー増加率10% を上回る仕組みを確立
  • プラットフォーム化: APIを公開しパートナー数急増-> Trunk「プラットフォーム化」

2) なぜ日本人受けするのか

日本語化して2-3ヶ月で全ユーザーシェア18% (アメリカは約2年で57%)、パートナー数は最大、活用本が数冊出版されるなど、日本でのスタートダッシュは好調。

日々大量の情報が生み出されるネットの世界で情報収集するには、気になる箇所だけを切り抜くこと。逆に言えばムダな情報を捨てること。そして、印をつけ/インデックス化して階層的に整理すること。

なぜ日本人受けするのか・・・それは、民族的に整理整頓が得意で、歴史的にも教育的にも美徳化されたことが背景にあるのかも。バリューを生み出すには、付加価値をプラスする軸とムダを除いてコストを削減する軸があるが、日本の製造業の強みは、「ムダ、ムラ、ムリ」のダラリを何度も何度も極限にまで排除しようとする執念。

それらをサポートする役割がEvernote のサービスで、売り手は買い手であるクラウド上の整理箱に会社名や商品が入っていてほしいので、販売促進/広告効果をねらって活用する可能性が高いほか、ライセンス料も無料なので、パートナーが拡大する余地大。パートナーへの補完的役割によって、個人ユーザーへの入口が拡大、利便性も増し、さらなる質の向上へ。

3) Social Memoriesの可能性

ユーザーの関心事のエッセンスがつまった整理箱をつなぎ合わせれば、Social Graph 改め「Social Memories」が生まれ、記憶と記憶をつなぎ合わせて付加価値を生み出すサービス「global platform for human memory」が誕生するかも。 Trunkによるプラットフォーム化はその第一歩。

あるいは、ユーザーの関心事のエッセンスを解析して、「こんな物が欲しかったのではないでしょうか、お客様」のような購買をレコメンドするコンシェルジュ型サービスの展開。類似系として、ALBERT社はソーシャルゲームアバターをレコメンドする解析エンジンを提供。

インターネット大潮流-VI」で触れたように、ネットビジネス究極の目的は、人々のあらゆる情報をデジタル化して、人間データベースを構築すること。その本源が、「ユーザー数に比例して価値が向上するデータベース」。とりわけ、ユーザーの関心事のエッセンスが自動的に集積され、過去の様々な記憶の組み合わせによって「知の価値」を生み出すEvernote。活用次第では面白いビジネスが展開できそうだ。