孫の二乗の兵法 改訂版-I

私の好きな公式は、京セラ創業者 稲盛和夫さんの「人生の方程式: 結果 = 考え方×能力×情熱」 。そして、実体験を基に「孫子の兵法」を5x5の漢字でうまくまとめたなと感心したのが、SoftBank 孫さんの著書「孫の二乗の兵法」。
今回は、オリジナル「孫の二乗の兵法」にこれまで読んできた中国古典などを当てはめ、自分なりに解釈した改訂版。原則は、「持続可能な勝ち方」。会社の規模は、スタートアップからIPO前のステージ。下線のリンクは、私が以前まとめた詳細な内容なので、そちらも参考に。

1. 理念

1) 道: 大儀名分、志

  • 「生前における真実の深さに比例して、その人の精神は死後も残る。人生二度なし! -by 修身教授録
  • 一燈照隅 万燈照国(いっとうしょうぐう ばんとうしょうこく)」
  • 「志ほど世に溶けやすく、壊れやすく、砕けやすいものはない -by 司馬遼太郎「峠」」 
  • 「経営者や従業員が迷った時に帰って行く心のふるさと。それがビジョンであり、夢であり、経営理念 -by CSK 創業者 大川 功」
  • 「皆が『いい』と賛成することは概ね失敗し、『うまくいくわけがない』と反対されることはなぜか成功する -by セブン&アイHD会長 鈴木敏文

自分の物差し・価値基準をもつこと by 内村航平さん

  • リオが終わった直後、来年は1年間、オールラウンダーとしては休養しようかと考えた。でも月日がたつにつれ、ここまで6種目できてこそ体操と言ってきて、急にスペシャリストに転じるのは自分自身が許さないだろうなと気が変わった。ちゃんと一本筋の通った演技を6種目でつくって、オールラウンダーとして勝負していく。結果として代表選考会で負けるのなら、そのときはスペシャリストで生きる道を探ればいい」
  • 「連覇はどこかで止まる? そりゃ、止まりますよ。あの吉田沙保里さんでも負けたんだから。でも、負けることは怖くない。リオの個人総合決勝は負けたと思ったし、この演技で負けるならしょうがないという気持ちになれた自分自身も確認できた。そういうふうに割り切れたことで、連覇が続こうが途切れようが、僕は自分の演技を追求していけばいいんだといま思うことができる。今後は、勝ち負けよりも演技の内容とか質にこだわっていきたい。結果的にそういう考えの方が、勝ちにも近くなると思う」


2) 天: 天の時、タイミング、機微

  • 「気運というものは、実におそるべきものだ。西郷でも木戸も大久保でも、個人としては、別に驚くほどの人物ではなかった。けれど、かれらは「王政維新」という気運に乗じてやって来たから、おれもとうとう閉口したよ -by 勝海舟(司馬遼太郎の『燃えよ剣』) 」
  • 「新しい産業には、かならずその「予兆」がある。その「予兆」を逃さずにとらえ、これを命がけで事業化しようとする人に対して、天は時流と使命を与える -by CSK 創業者 大川 功」
  • 「経営は時間の関数」-> e.g. 生まれながらにインターネットの環境で育ってきた世代が消費活動を始める2015年以降は、経済基盤がリアルからネットへ大移動。スマートフォンの進化により加速するアプリのクラウド化
  • 「自分、相手、全体」を大局的にとらえ、期が熟したある「時期」に備わった自分・会社の能力や、外部要因の変化「機会」を味方につけるだけでなく、「気運」という天の勢いをも味方につけ、上げ潮のような大きな波にのれるかどうか-> i.e. 時に中る(あたる)「時中
  • 時流を追いかけていくと、時の中心に身を置いている錯覚とともに、流れに巻き込まれ、ものごとの本質を次第に見失うので、大局観という羅針盤が重要
  • 将来への種マキ (10-20%)
portfolio of initiatives
<>
種まきは10-20%

3) 地: 地の利、地理的条件、税制、資源、インフラ、人財、事業ポートフォリオ

4) 将: 大将の器量、リーダーシップ、運気
(如何に大きな志を抱き、如何に優秀な人を多く集めて、彼らと共に自らなすべきことを明確にし、その志を共有化するプロセスを細分化)

  • 「能力や技じゃない その場にいる者達を次々に自分の味方につける。この海においてあの男は、最も恐るべき力を持っている!-by 鷹の目のミホーク」
  • 「自分の能力を使うのは三流で、他人の知恵を使うのが一流のリーダー (下君は己の能を尽くし、中君は人の力を尽くし、上君は人の智を尽くす) by-韓非子
  • ひとつだけ指導者に必要な条件を挙げよと言われれば、「自分より優れた人を使える」ということですな。 -by 松下幸之助
  • 「兵士たちがお腹が空いているのであれば、将軍は最後に食べる。疲れても、暑くても、寒くても、それを見せてはいけない。強敵が目の前にいて、兵士たちが死ぬほど怯えている時、リーダーとして励ませば、それが皆に影響していく。これは小さな団体でも、大きな組織でも変わらない -by コリン・パウエル
  • 「将軍とは、百将や千人将らと同じく役職・階級の名称にすぎません。しかし、そこにたどりつける人間はほんの一握り。数多の死地を越え、数多の功を挙げた者だけが達せる場所です。結果、将軍が手にするのは千万の人間の命を束ね戦う責任と絶大な栄誉。故にその存在は重く、故にまばゆい程に光り輝く。十三の頃より数え切れぬほどの戦場を駆け回り、数万の戦友を失い数十万の敵を葬ってきました。命の火と共に消えた彼らの思いが、全てこの双肩に重く宿っているのですよ。-by 王騎」
  • 「あらゆることを想定し陰ながら見守る『任せる』 vs. 任せたから勝手にやれ『放任』は全く違う- by 西堀 栄三郎」
  • 「自らは利他・分福を施すことで運を呼び込む一方、周りからは部下の機微を察し、勢いがある者を適材適所に配置することで、相手の運気をも取り込む。大将たるもの 運気が強くなくてはならぬ!」

5) 法: 組織、仕組み、制度

  • 「組織とは、異なる個性を認めあうことを土台に、欠陥を持った不完全な人間同士が集まり、足らぬところを補い合い、大きな能力を発揮する生命体- by 西堀 栄三郎」
  • 「楽しく仕事をしてもらうには、その仕事がしたい人にしてもらえばよい (どんな職種でも、その仕事が好きな人はいるので、そういう人を対象に募集をかける) -by ライフネット生命 出口治明 社長)
  • 「生きた経営の意志を持ち、システム化された組織をつくること。初めに明確な経営の意思がなければ企業は成立せず、その意思を伝達し、実現するための経営システムを構築せよ -by McKinseyの土台を築いたMarvin Bower」
  • IT企業の組織図

2. ビジョン

1) 頂: 大局観長期的視点洞察力先見性

  • 「私はよく『2200年』という未来を軸にしてモノを考える。『2200年』に生きている人類に、私たちは何を残すのか、どう思い出されたいのか。そこまで考えると、本質的なことをやらなければならないことに、誰もが気づくはず。一過性の、すぐに廃れてしまうようなものばかり作ってもしょうがない -by 石井裕 MIT教授
  • 当事者意識を持って、3年後を想定しながら、2つ上のポジションにいるつもりで、かすかな兆候から将来の全体像を推し測る訓練をせよ
  • 「若手は、簡単な一手を指すにも数百もの膨大な手を読んで指すが、ベテランは勘でパッと見当をつけて指す。パッパッと指す手には邪念がないから、基本的に悪くない。全体を判断する目、大局観、本質を見抜く力、ばらばらな知識のピースを連結させる知恵といってもいい。逆にいうと、余計な思考を省き、近道を発見するようなもの。その思考の基盤になるのが、勘、つまり直感力や感性。直感の7割は正しい -by 羽生義治」
  • 「聖人は微を見て以って明を知り、端を見て以って末を知る -by 韓非子」・・・かすかな兆候から将来の全体を推し量り、わずかな部分を見て結果を知ることができる。こんな人いるのかなというスーパースター像。

2) 情: 情報、敵情、内情、相手の意図を見抜く

  • 「新しい価値ある情報は、『内』ではなく『外』にある。必要なのは、外へ踏み出す意欲と努力 -by セブン&アイHD会長 鈴木敏文
  • 「本を読みながら傍線を引くなら反対意見に引く。どこが異なり、なぜそうなるのか、その根拠は、逆に自分はなぜそう考えるのか・・・と突き詰めれば、自分の考えを補正、補強、発展させることができる -by セブン&アイHD会長 鈴木敏文
  • 「アムンセンと異なり、『たまたま』使った犬が役立たなかったからといって『そもそも』犬は役立たないと決めたところにスコット隊の悲劇があった-> ちょっと試してうまくいかなかったからといって簡単にあきらめてしまう軽率な態度: 慌て者の過誤」
  • 「分析とはやたらほじくって問題を整理し、分析の海におぼれ 分析のための分析になるより、本質はここにあるのではないかと、仮説を検証するために行うもの -by 元BCG日本代表 内田和成」
  • 「戦略 = 仮説 x PDCA = 精緻&検証可能な仮説 x 絶えず柔軟に修正 -by 経営共創基盤CEO 冨山和彦」
  • 「戦略 = 理想 - 現状= ギャップを埋めるケンカの仕方 -by 元BCG日本代表 御立尚資
  • 「アイディアは、数字・ファクト・ロジックでmonetizeせよ - by 複数の有名企業家+VCs
  • 「重要なことは、正しい答えを見つけることではない、正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはない -by ドラッガー
  • 「参謀五戒: 1) 参謀たるもの「イフ」という言葉に対する本能的恐れを捨てよ, 2) 参謀たるもの完全主義を捨てよ, 3) KFS(Key Factors for Success)については徹底的に挑戦せよ, 4) 制約条件に制約されるな, 5) 記憶に頼らず分析を -by 大前研一

3) 省: 省く(枝葉を省き、幹だけを抽出=単純化=本質)、省みる(自己を客観視->自己否定->自己変革)

  • 「困難であればあるほど、期限をできるだけ短く区切ったほうが やるべき課題の本質が見えてきて、不可能が可能になる -by セブン&アイHD会長 鈴木敏文
  • KISS (Keep it simple, stupid) 「もっと簡単にやれ! バカモン」-> 「ごちゃごちゃ考えずに、キスで行け!」
  • 「簡にして要の説明ができないのは、十分に理解できていないからだ -by アインシュタイン
  • 「顧客の注文を受けてから現金を手にするまでの時間の流れを見て、付加価値を生まないムダを取り除くことで、その時間の流れを短縮する -by トヨタ生産方式の発明者 大野耐一」・・・作業工程を改善する場合、付加価値を生みだす生産設備をいじくりがちだが、付加価値を生む行程の割合は通常、非常に小さいので、その部分を改善しても大した効果はでない。付加価値を生まないムダを排除するという、もっと大きな改善チャンスに多くの人は気づかない。
  • 「複数の論点があり相互に矛盾しているため、すべての論点を同時に解くことができないことも多い。例えば普天間基地問題。解くべきは「地元」の問題なのか、「沖縄全体」の問題なのか、「日本」の問題なのか。それも「生活」の問題を解くのか、「安全保障」の問題を解くのか、はたまた「アメリカ」が抱える問題を解決するのか。論点が異なれば解決策も異なってくる。すべての論点を同時に解決できる万能の解決策など存在しない -by 元BCG日本代表 内田和成」
  • 「自己を客観視->否定->変革の難しさ: 己と敵の分析結果が示す道を素直に受け止められず、論理性・客観性を欠いた現実認識は最終的に超甘な前提、希望的観測、精神論へと逃避 - 大東亜戦争の教訓

4) 七: 何となくではなく確実に勝てる7割 (損失は最大でも3割)

  • 「7割の成功が信じられなければ、山には登らない -by 世界初 女性エベレスト登頂者 田部井淳子
  • 「どうこうできるのはせいぜい7割まで、残りの3割は天命で、その辺りを見切れるのが一流 -by 西武元監督 森祇晶
  • 「まさかに備えよ: 近い未来では3割、遠い未来では7割程度の偶発事が起きる-by 矢部正秋(プロ弁護士の思考術)」

5) 胆: 実行力 & 闘争心=胆識

  • 知識->見識->胆識: 知識に判断力が備わると見識、その上に胆っ玉を伴った実行力が加わって初めて胆識 -by 安岡正篤
  • 「頭がいいとか悪いとかはせいぜい数倍の差だが、頑張るという力は人によって100倍の差がある。『努力は決して人を裏切らない』、それが38年間、会社を経営をしてきての実感。 - by 日本電産 創業者 永守重信
  • 「悲観的に考えて、楽観的に対処。最悪の事態をとことん考え、それに耐えるあらゆる手だても考え、それしかなければ着手。そしてスタートしたらくよくよしない -by ヒロセ電機会長 酒井秀樹」 
  • 「以前は一瞬のひらめきだと思っていたが、今は長期間、同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている。個人の能力差より、継続できる情熱を持っている人の方が、長い目で見ると伸びる by-羽生義治