決断力I

今回は、私が心がけている決断までのプロセスを羽生義治さんの著書「決断力」に照らして、ちょっことコメント。両者の「決断力」の定義を比較しようという試み。

私の定義

  • 思考: 本質、長期、多面 (問題の本質をつかみ、長期的視点に立って、プラス・マイナスなど多面的に解決策を探る)
  • 実行: 優先順位、タイミング(解決策に対し、優先順位をつけ、タイミングを計って実行- とりわけ"timing is everything" )

羽生義治さんの解説

確信を持って指しているのではなく、その場その場で「これがいいのではないか」と何となく思って指している。序盤以降は、予測が難しい中で決断していくプロセスの繰り返し。・・・将棋には1つの局面に80通りくらいの差し手があるが、これまでの経験から不要な大部分を捨てて、2-3手に絞る。全ての可能性を思い浮かべるのではなく、カメラでフォーカスを絞る感じ。
3つに絞った手に対し、頭の中に描いた将棋盤で綿密にロジックで検証。それぞれが枝葉に別れて増えるので、300-400手になってしまう。どこまで検証すればいいか基準はなく、ある程度のところで思考を打ち切り、選択肢を絞り込んで決断。
頭の中の将棋盤をひっくり返して、相手の立場になって眺めたりもする。・・・先の全てを見通して手を打っているように思われがちだが、実際は10手先の展開も読めず、五里霧中の中で、一つ一つの決断を下している。いい手か悪い手かは、結果論でしかない。

ここでの共通点は、

  • 80手から2-3手に絞る過程: 本質(大局に立って物事の本質を見極める)
  • 絞り込んだ手を綿密に検証 + 相手の立場: 多面
  • ある程度のところで思考を打ち切り、選択肢を絞り込んで決断: 優先順位

勝負が決定するまでだいたい数百手。この中に人為的には支配できない流れがある。波は幾度か変わるため、お互いに何度か勝機が訪れるが、これをつかめるかどうかが実力の差。将棋に限らず勝負には、流れの中に必ず勝負どころがある。しかも勝敗を決定するのは、絶妙の1手、最悪の1手であったりする。
将棋では、勝ったケースの殆どは相手のミスによるもの。ミスをすると、状況が混沌とし、今までスムーズだった流れが停滞。局面が複雑になり、判断がつきにくい場面になると、さらに厳しい状況になるので、また次のミスが出やすく、ミスがミスを呼ぶ連鎖反応へ。相手のミスを勝機に変えられるかどうかが勝負の分かれ目。

これはタイミング。

若手は、簡単な一手を指すにも数百もの膨大な手を読んで指すが、ベテランは勘でパッと見当をつけて指す。パッパッと指す手には邪念がないから、基本的に悪くない。全体を判断する目、大局観、本質を見抜く力、ばらばらな知識のピースを連結させる知恵といってもいい。逆にいうと、余計な思考を省き、近道を発見するようなもの。その思考の基盤になるのが、勘、つまり直感力や感性。直感の7割は正しい。・・・中学の図形問題では補助線がひらめかないと解くのが難しいが、将棋もこの補助線のようなひらめきが浮かぶがどうかが、強さの決め手。・・・・将棋を通して、知識を知恵に昇華させるすべを学んだ。
飛車や角という強力な駒でも、守るためたくさんの駒を使う必要があったら、パッと桂馬や香車などに換え、その駒を他の場所で使う。部分的には損だけど、全体としてはプラスになることが多い。

ここは、本質を見抜く力(大局観)と長期的視点。「知識を知恵に昇華させるすべを学んだ」、これが私のブログの目的。また「直感の7割は正しい」は、ずしりと重みのある言葉。

山ほどある情報から自分に必要な情報を得るには、選ぶより「いかに捨てるか」のほうが重要。
ロジカルに考えて判断を積み上げる力も必要だが、見切りをつけ、捨てることを判断する力も大事。

ここは、大局観と優先順位。私の好きな耶律楚材(ヤリツソザイ)の言葉、「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」や、マキャヴェリ天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」と同義。

勝ちにこだわる将棋は、将来的にはマイナスになりかねない要素。勝つことだけを優先していると、自分の将棋が目の前の一勝を追う将棋になる。長く将棋を続けていくには、目先の勝負以外のところで先行投資的な研究をしなければならない。

ここは、長期的視点。

まとめ

概ね私の決断力と同じ要素。ただ、ビジネスと将棋では、下記のように決断を下す状況が異なるといった感じ。改めて、ブログ「問題の本質」を通して大局観をつかむ/ 直観を磨く練習を継続しなければいけないと感じさせる書籍だった。

  • ビジネスの場合だと、決断を下した後、少々様子を見ながら微調整していくが、将棋の場合は一手一手で局面が変化し、新たな判断が要求される点。将棋はビジネス決断の短縮形。
  • 将棋では時間的プレッシャーとお互いの心理作戦も加わることで、より重要度を増す大局観。

大局観-別の視点

ビジネス界の大御所ドラッカー「現代の経営」

戦略的な意思決定において重要かつ複雑な仕事は、正しい答えを見つけることではない。それは正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とまではいわないまでも、役に立たないものはない。・・・・したがって、意思決定において最初の仕事は、本当の問題を見つけ、それを明らかにすることである。この段階では、いくら時間をかけてもかけすぎるということはない。

これは大局観を逆方向から指摘

マキャヴェリ「国家編」

大局の判断を迫られた場合、人は誤りを犯しやすいが、個々のことになると、意外と正確な判断を下す。・・・大局的な事柄の判断を国民に求める場合、総論を展開するのではなく、個々の身近な事柄に分解して説得すればよい。

これは大局観の活用法