易経V-先見性

先見性とは

リーダーに求められる重要な資質、時代を予見する「先見性」。時代は大きく、長・中・短期にわけられるので、それぞれに分けて定義を試みた。まず一番分かりやすい中期から・・・

1) 中期: 3年

  • 「一つのことを一生懸命やっていると、そのものごとについて、ある程度予見できるようになる」 松下幸之助
  • 「百歩先を見るものは狂人扱いを受け、現状のみを見るものは落伍する。十歩先を見る者のみが成功する。」 阪急グループ創業者 小林一三

百歩先というのは、10年くらいの長期、十歩先は3年ほどの中期。ものごとに精通すると、3年くらい先はかなりの精度をもって見通せたというのが、幸之助のじいちゃんレベル。インターネットに対する嗅覚が優れていた孫さん、SoftBankの投資先を見ても彼の感度の良さが分かる。参考までに、「インターネット大潮流 I-VIII」はこちら

2) 長期: 10-20年

狭い領域の長期予想は、小林一三さんが言うように困難。しかし、領域を広げて、時間の関数として線を引けば、大潮流のどこかには入っているはず。例えば、今後のBRICsなどの成長率や需要など時間の関数に、「窮まれば変ず」の大原則をあてはめると、石油の高騰・逼迫感が極まれば、「省エネ、クリーンエネルギー、オルタナティブエネルギー」に転じ、LNG、太陽エネルギー、原子力メタンハイドレートなどが脚光をあびる

オンライン世代がオフライン世代に置き換わっていく時間の関数に、オンラインとオフラインで提供されるバリュー較差が極まれば、消費活動の基盤がこちら側からあちら側へと地殻変動をおこす。そして、ネットビジネス究極の目的「人々のあらゆる情報をデジタル化して、人間データベースを構築すること」、つまりデジタル化という時間の関数に、顧客の価値意識が極まれば、カーシェアリング でふれた所有価値から利用価値へ。利用価値をトコトン追及する革命運動はデータベースの有効活用によって今後ますます加速、その大潮流は、真の意味での顧客中心主義。

3) 短期: 四季

ここで必要な眼力が、これまでふれた「兆し」を察する直観力。固定的な期間はないけど、イメージとしては冬から夏へ、夏から冬へ変化する四季といったところ。

先見性を高める大局観

それぞれ異なる眼力が必要だが、共通点は、視野の中心に目を置きながら360度全体を見渡す大局観で、「窮めれば転ず」「陰陽思想の原則」「業界内の普遍的原則」など法則性を念頭において、世の中で起こる様々な事象に対し当事者意識で鍛錬を積み、それを何度も反復し、精度を高めること。

  • 先見性向上 = (大局観x法則性x当事者意識) x反復

長期になればなるほど、時間の関数を重ね合わせ、より大きな流れをとらえる陰の意識。逆に短期になればなるほど五感を研ぎ澄ませ、集中力を極限に高める陽の感覚。

  • 古田敦也 名捕手いわく、「敵との駆け引きに没頭していると、味方がみえないことがある。例えばダブルプレイを狙って注文どおり内野ゴロに打ち取ったはずが、打球の方向を追うとそこには内野手がいなかった。キャッチャーは、常にグランド全体を見渡し、チーム全員の動きに気を配りながらプレーする必要がある。」
  • 臨床心理学者の河合隼雄文化庁長官いわく、「心理療法の現場で、患者はアルコール依存症と告げられたカウンセラーは、それが核心だと決めつけてしまい視野が限定的になるが、一流のカウンセラーは全てに平等の注意を払いながら『ぼーっと聴く』。大事なのは、何か一つの方向に収斂していくような集中の仕方ではなく、方向性を全て捨てた集中力。フロイトいわく、『平等に漂える注意力』。
  • オリックス 宮内会長いわく、「花の写真を撮る場合、花そのものにピントを合わせ、花を際立たせるように、競争に打ち勝つには、花そのもの、つまりコアビジネス・得意分野に特化するのがいい。しかし、経営者は日の当たり具合が変わったら、今は目立たない後ろの花が綺麗に輝くかもしれないとか、新しいカメラの性能なら向こうの花のほうが面白く写るかもかもしれないなど、めまぐるしく変わる天候や日進月歩で進化するカメラの性能なども考慮に入れて、周囲の風景にも注意を払う必要がある。だから私は、背景に関する情報をその道の専門家からできるだけ多く集めるようにしている。」
  • 宮本武蔵 五輪書いわく、「心眼で見る『観』で強く、目で見る『見』で弱く、遠いところを近くでありありと感じるように、近いところは遠くから大局をつかむように大きく広く見る。敵の太刀筋を悟り、太刀そのものは全く見ないことが兵法のツボ。」

以前まとめた羽生義治さん「決断力」より、超一流の感覚を紹介。最後の段落が象徴的。

確信を持って指しているのではなく、その場その場で「これがいいのではないか」と何となく思って指している。序盤以降は、予測が難しい中で決断していくプロセスの繰り返し。・・・将棋には1つの局面に80通りくらいの差し手があるが、これまでの経験から不要な大部分を捨てて、2-3手に絞る。全ての可能性を思い浮かべるのではなく、カメラでフォーカスを絞る感じ。
3つに絞った手に対し、頭の中に描いた将棋盤で綿密にロジックで検証。それぞれが枝葉に別れて増えるので、300-400手になってしまう。どこまで検証すればいいか基準はなく、ある程度のところで思考を打ち切り、選択肢を絞り込んで決断。

勝負が決定するまでだいたい数百手。この中に人為的には支配できない流れがある。波は幾度か変わるため、お互いに何度か勝機が訪れるが、これをつかめるかどうかが実力の差。将棋に限らず勝負には、流れの中に必ず勝負どころがある。しかも勝敗を決定するのは、絶妙の1手、最悪の1手であったりする。
将棋では、勝ったケースの殆どは相手のミスによるもの。ミスをすると、状況が混沌とし、今までスムーズだった流れが停滞。局面が複雑になり、判断がつきにくい場面になると、さらに厳しい状況になるので、また次のミスが出やすく、ミスがミスを呼ぶ連鎖反応へ。相手のミスを勝機に変えられるかどうかが勝負の分かれ目。

若手は、簡単な一手を指すにも数百もの膨大な手を読んで指すが、ベテランは勘でパッと見当をつけて指す。パッパッと指す手には邪念がないから、基本的に悪くない。全体を判断する目、大局観、本質を見抜く力、ばらばらな知識のピースを連結させる知恵といってもいい。逆にいうと、余計な思考を省き、近道を発見するようなもの。その思考の基盤になるのが、勘、つまり直感力や感性。直感の7割は正しい。・・・中学の図形問題では補助線がひらめかないと解くのが難しいが、将棋もこの補助線のようなひらめきが浮かぶがどうかが、強さの決め手。・・・・将棋を通して、知識を知恵に昇華させるすべを学んだ。

1) 把握の仕方: 局面全体+時流

初心者は、駒を一つ一つ認識。アマチュア初段の中級レベルは、矢倉囲いや4六銀型など部分的な塊として認識。プロレベルの上級者では、局面全体を一瞬で判断。さらにトッププロは、流れで形成を判断。レベルがあがるにつれ、点→線→面→空間(流れ) というように碁盤全体だけでなく、「どういう展開でその局面に至り、このあと何が起こるか」も考慮に入れ、時流という碁盤の流れ、時間軸を伴った空間で把握。

2) 時流の中身: 逆算 vs. 順算

初心者は、飛車や角をとるにはどうしたらいいかなど目標を設定して、そこから指し手を考える「逆算」型。一方プロは、ある局面を見た瞬間、その局面が大局の中のどのような状態かすぐに分かって、どうしたらいいか結論が浮かぶ「順算」型。

大局観の本質: 時の本流を見抜く力 + 「順算」型の判断

再度、一流の方々の説明を読むと、時の本流をとらえ「順算」型の判断をすることが大局観の本質なのかも。

  • 一流のカウンセラーは全てに平等の注意を払いながら『ぼーっと聴く』。大事なのは、何か一つの方向に収斂していくような集中の仕方ではなく、方向性を全て捨てた集中力。フロイトいわく、『平等に漂える注意力』。
  • 日の当たり具合が変わったら、今は目立たない後ろの花が綺麗に輝くかもしれないとか、新しいカメラの性能なら向こうの花のほうが面白く写るかもかもしれないなど、めまぐるしく変わる天候や日進月歩で進化するカメラの性能なども考慮に入れて、周囲の風景にも注意を払う必要がある。
  • 若手は、簡単な一手を指すにも数百もの膨大な手を読んで指すが、ベテランは勘でパッと見当をつけて指す。全体を判断する目、大局観、本質を見抜く力、ばらばらな知識のピースを連結させる知恵といってもいい。逆にいうと、余計な思考を省き、近道を発見するようなもの。
  • 易経-風地観いわく、「風の地上を行くは観なり」。風があまねく吹き渡るのを観ることが洞察、洞察とは風を観ること。時は地上を吹き渡る風のように、常に変化して、流れ往き、目に見えず、言葉で聞くこともできない。しかし、人の言動や、世の中で起こる出来事、目に見える全てが、今はどういう時か、時はどこへ向かっているのかという法則性を示している。目に映るもの、体験する全てのことを通して時を知り、兆しを察すること。

留意点: 撤退する勇気

オリックス 宮内会長いわく、「失敗だと判断したら、即座にやめること。一つのことに集中しすぎると、先見性を損なうことが多い。さっとやめれば、次のことが見えてくることが少なくない。何がなんでもと思いつめてしまわず、柔軟性を保つことが大事。」