易経VI-強運のレベル

強運のレベル

成功者にその秘訣を聞くと、概ね返ってくる答えが「運」。幸之助のじいちゃんでも「9割は運だ」というほど。このレベルを分けたのが下図。努力して得られる運、意識して掴み取る運、天性の運。

1) 努力して得られる運

例えば、猛勉強して一流校に入学。そこには、他校に比べ目的意識の高い学生が集まるので、お互い刺激しあうことでより成長できる機会に恵まれる。将来、重要なポストにつく可能性の高い学友と親交を深めることで、他校より有効な人脈を築く可能性が高まる。歌手の福山雅治さんいわく、「売れないときは売れない者同士が集まるが、売れると一流の人が集まる」。

2) 意識して掴み取る運

これが、いままでふれてきた易が説く「時中」。「自分+相手+全体」、「気運+機会+時期」、「その時+その場+その立場」、これら3要素は我々の前に潜在的に表れては消えるので、よほど意識しないと見えない場合が多い。これら潜在要素を3次元でとらえ、卓越した動体視力で立体の中心を射抜けるかどうか、3つの「キ」気機期を運に昇華できるかどうか。つまり、意識しないと取り逃してしまう運、または取り逃してしまったことすら気付かない運。

3) 天性の運

上の二つは努力・精進すれば到達できる域だが、それだけではどうにもならない運、それが天運。典型が、オリンピックの金メダル。実力が反映されやすい世界選手権に対し、運気が反映されやすいオリンピック。世界選手権では何度も優勝、実力は世界一なのに、なぜかオリンピックでは勝てない選手。その一方、オリンピックの期間中に彗星のごとく現れ、200m平泳ぎで金メダルを手にした岩崎 恭子さん。荒川静香さんもがっぷり組んで横綱相撲で寄り切ったというより、相手が自ら滑って手をついた自滅型の引き落とし。サラブレッドの世界でも、運の強い馬が勝つといわれるダービー。

出会いも運: 宮崎 駿

超一流といわれる人でも、どん底を経験した方はかなりいて、そこでの共通点は引き上げてくれる人と出会い。アニメ映画の巨匠 宮崎 駿さんもその一人。3つの「キ」気機期を同時に得て昇華させる「時中」ともからめて、ちょこっと解説。

1)「ルパン三世 カリオストロの城

1974年33歳の時、高畑勲 監督の下、最高平均視聴率26.9%のヒット作「アルプスの少女ハイジ」で、全カットの場面設定・画面構成を担当。独自の作品を作りたいとの気持ちから、79年に『ルパン三世 カリオストロの城』で映画監督デビュー。業界関係者やアキバ系ファンからは熱狂的に支持されるも、宇宙戦艦ヤマトガンダムなどSFアニメ全盛の時代、大衆受けせず映画館はガラ空き。優れた作品を生み出せる能力(時期)はあったが、SFアニメ全盛という環境(機会)は逆風。機会を得ていないので、気運は無風。

2)不遇

その後、テレビ局などに『もののけ姫』『となりのトトロ』『天空の城ラピュタ』の原型となるオリジナル企画を提案するも、「宮崎の企画は古臭い、当たらない」と陰口をたたかれ、見向きもされず。後に大ヒットとなるこれら作品でも、機会を得ていなければ成果に結びつかないという典型。

3)出会い

「人を喜ばせたい、人を喜ばせることができなければ意味がない」との志を抱きつつも、世間は受け入れてくれない現実。「オレはこのままくたばってしまうのか」との絶望感が去来する中、「窮すれば変ず」の法則に従い、宮崎を引き上げてくれる人物に遭遇。後にスタジオジブリでプロデューサーとして支えてくれる鈴木敏夫さん。アニメ雑誌でマンガを連載しないかと何度も勧誘され、しぶしぶOKした宮崎。
ここから運気という歯車は面白いように回り出す。次第に人気が出てきたことで、映画事業に意欲的だった徳間書店が劇場アニメーション化を決断。宮崎の弟が勤める博報堂がこれに乗る形でプロジェクトが結成。それが84年に公開された『風の谷のナウシカ』。前作の『ルパン三世 カリオストロの城』がテレビ放映され、その面白さが広く社会に認知されたことや、エコロジー・ブームの中にあったことと相俟って大ヒット。これまでとは違い、機会を見方に、気運も得た宮崎駿の名は作家として広く認知。

4)勢いを増す運気

徳間書店の出資を得て創設したスタジオジブリを舞台に、86年『天空の城ラピュタ』、88年『となりのトトロ』を映画化。興行成績はそれほど振るわなかったが、その後両作の人気は著しく高まった。80年代初期、テレビ局に提案し却下された原案なのにね。興行的に成功したのは、89年『魔女の宅急便』以降。97年『もののけ姫』、01年『千と千尋の神隠し』、04年『ハウルの動く城』、08年『崖の上のポニョ』へと運気は伝達。