易経VII-運を上げるには

運とは

1) 必然であり偶然?

人との出会いを例に運の本質について考えると、出会いはだれにもある必然性の要素と、その中身(質と量) は人によってそれぞれ異なるため偶然性の要素がある。

他の方とも出会っていた宮崎 駿さん、その中でも転機をもたらした鈴木敏夫さんとの出会い。たまたま映画事業に意欲的だった徳間書店、宮崎の弟が勤める博報堂。これらが見えない糸で結ばれ、3つの「キ」気機期が偶然の一致をみた作品『風の谷のナウシカ』。

学校でも会社でも、様々な方と接する必然性。その中で努力せずとも偶然に、担任の先生や上司など質量ともにいい方とめぐり合える機会の多い人と、そうでない人。

コイン表裏の確率のように、幸運・不運は半々という観点から統計的に考えると、偶然が重なって繰り返し幸運が続くこともあるし、不運の時期がずっと続くこともある。しかしその偶然性は、正規分布の範囲内に収まっているので、必然性でもある。100万人のじゃんけんの勝ち抜き選をすれば、偶然にもずっと勝ち続ける人は必ず一人いるのと同じ。運とは、必然であり偶然だから、「ツイてない」といって嘆く必要はない。

2) 運命と宿命: 宿命 + 環境 = 運命

命に宿る「宿命」は、自ら選ぶことのできない固定的なもので、この世に生を受けたときに与えられた個々人の資質。一方、命を運ぶと書く「運命」は、努力次第あるいは、自分をとりまく環境次第で変えられるもの。人間の宿命自体に良い悪いはなく、与えられた宿命/資質に合った生き方ができれば、努力が実を結び、満足のいく人生が送れるはず。運命を吉凶と捉えるより、「上手に活かせるかどうか」、そして「動かすのは自分である」と捉えたほうが正しいはず。そのためにもまず、「自分というのはどのような資質が与えられているのか」宿命を受け入れ、「自分の運命はどのような環境で最大化できるか」を考えることが大事。

出会いの質量の違いのように、残念ながら努力・精進ではどうにもならないものがある。それが宿命。運だけでなく、能力にも超えられない厚い壁がある。天賦の才と運、両方を兼ねそろえた典型が、無敗の三冠馬シンボリルドルフディープインパクト

「自分で選択した人生」と「思い通りにならないところに価値があるから、わざわざ自分でつらいことをいっぱい計画して生まれてくる」という攻めの思考でとらえると、人生という旅路は一本道ではなく、次々に訪れる思い通りにならない関所で枝分かれした系統樹のようなもの。それら関所は生まれる前に自分自身で計画してきた試練なので命に宿る宿命だけど、その対処法によって枝分かれした道は、命を運ぶという意味で運命。運命とは、自分の意思と努力で選び取り、切り開くことができるということ。それぞれが歩む人生の航路はまさに、系統樹のような生物の進化の過程であり、枝分かれした先が困難に打ち勝った人から逃げた人まで人間の多様性を生む。
羽生善治 棋士いわく、「運命は勇者に微笑む」

運を上げるには

個人間でも異なり、同じ人でも時期によって移ろい行く運気。成功した経営者に共通する強運。どうしたら運気を上げられるのか。いずれも周りから運気を呼び込み、たぐい寄せる手法。いずれにせよ、大将たるもの運気が強くなければならない。

1) 自身:

a. 積善余慶

易経いわく、「積善の家には必ず余慶あり 積不善の家には必ず余殃あり」。「積善余慶」の語源で、善行を積み重ねる家には、子々孫々に至るまで必ず余分の恵みがあるよ。不善を積む家には、後世まで余分の災禍が及ぶよ。日々正しいことを行っていれば、そこに人が集まり、助けてくれる人と接する機会が増えるため、運気が上がるよ。因果応報という考え方。

b. 利他・分福

二宮金次郎いわく、「(丸い風呂に入りながら村人に教えた場面) 自分の利益ばかり考えている者は、風呂のお湯を、しきりと手前へかき寄せているのと同じ。一時は自分の方へお湯が寄ってくるが、すぐに脇をすり抜けて向こう側へ流れていってしまう。結局、自分も恵まれることがない。これと反対に、常に相手のためを思い、自分の持っているものを与えようとする人は、お湯を向こう側へ押しやるのと同じだ。そのお湯は向こうへ行くように見えるが、実際には、ぐるっと回って自分の方へ返ってくる。相手も喜び、自分も恵まれることになる。自分さえよければいいという我利我利の心を捨てて、自利利他の心を持ちなさい。」

アシックス創業者 鬼塚喜八郎のじいさんいわく、「(笹船を丸い桶に浮かべて遊んでいた場面) 笹船を自分の所に引き寄せるには、手で水をかき寄せてはダメ。逆に水を向こう側へ押しやるようにするんだ。・・・何でも自分の物にしようと思って自分の方へ引き寄せてはいかん。向こう側に押してやれば笹船がこっちへくるように、自分のことより相手のことを考えてあげると、神様がお恵みを下さるんだ。」

c. 行動->気づき->受け入れ->活かす

茂木健一郎さんいわく、「Aを探していてそれとは違うBに遭遇したとき、その潜在価値に気づけるかどうか。とにかく具体的な『行動』を起こすことで、様々な偶然に出会ってその意味合いに『気づき』、自らの欲求・固執に縛られず意外なものを素直に『受け入れ(受容)』ると、本来コントロールできない『偶然を必然』に高めることができる。そのため日々心がけることは、偶然の出会いがあったときに、『それを活かす能力』を高めること、そして行動の範囲を広げ出会いの可能性を高めること。そうすれば、脳の中にすでにある仮説『欲求・執着』をダイナミックに修正し、偶然の幸運を引き寄せることができる。偶然のチャンスを活かせるかどうかは、心がけ次第、脳の使い方次第。」

柳生家家訓いわく、「小才は縁に出会って縁に気づかず。中才は縁に気づいて縁を生かさず。大才は袖振り合う縁をも生かす」

2) 部下: 機を見抜く眼力

海軍大臣山本権兵衛は、ロシアとの日本海海戦連合艦隊指令長官に意外な男、同郷の東郷平八郎を抜擢。その理由が「小さいときからよく知っているけど、あいつは運が強いから」。部下が波に乗っているとき、運気のあるときに、適材適所に配置できるかどうか。逆にいうと、それだけ部下を注意深く観察しているからこそ、部下の機微を察しているからこそ、適材適所に配置できるということ。これは人生のパートナー選択においもいえることかも。