アプリのクラウド化-I

世界の4大ネット企業、今のところGoogle 以外は各分野に特化して事業を展開中。そんな中、Googleは、SNS/ Facebookに対しソーシャルゲーム等の買収を活発化する一方、マイクロソフトに対しては、Google Apps を中心にクラウド連合軍でビジネスソフト陣地になぐりこみをかけようとしている。今回はクラウド化について、規模の戦いになるサーバー分野でなく、参入障壁の低いアプリ/ソフト分野について整理を試みた。

  • Google: PageRankをテコにドキュメントを中心に「情報」を整理して価値創出
  • Facebook: Social Graphをテコに「人と人とのつながり」を整理して価値創出
  • Amazon: 「e-commerce」 の流れを円滑かつ太くすることで価値創出
  • Apple: ハードからソフトまで「entertainment の垂直統合」で価値創出

クラウド化の潮流

1) スマートフォンの進化

クラウド化以前にもホスティング/ASPなど似たサービスがあったが、決定的な違いはモバイルの進化。そのため、iPhone を中心とするスマートフォン進化の過程から振り返ると分かりやすい。
ムーアの法則により、消費電力の低いCPU開発が進んで、iPhone を中心とするスマートフォンが誕生したものの、PCに比べ「小容量+非力」という弱点は永遠に克服できない宿命にあった。そこで、手元にソフト/アプリを置いて消費していたパワーを切り離してクラウド側へ持っていき、スマートフォンはデータの高速表示にCPUを使う分業が必然的に誕生。なお、手元に置いていたソフト/アプリには、保存する場所と処理パワーが必要で、よく電力などユーティリティに例えられるので、クラウドコンピューティング = 電力 (処理パワー) + 保存容量 (データサーバー)。

2) モバイルのブロードバンド化

そうすると、スマートフォン端末とクラウドをスムーズに行き来できる橋が必要で、それがモバイルのブロードバンド化。SoftBank孫さんが宣言した「2008年はモバイルインターネット元年」が象徴的で、確かそれには3Gというより3.5Gが必要などと発言。スマートフォンクラウドコンピューティング、モバイルブロードバンドの3つが繋がったことで、ウェブ上の膨大なコンテンツにようやくモバイル端末からアクセスできるようになった。理想系は、光ファイバーをバックボーン/太い線として、無線という細い線が幾重にもとりまく「光の道」。

3) 圧倒的なコスト削減効果/ リアルタイム「ing」化

クラウド化が注目を集める源泉は、何といってもコスト削減。初期投資や維持費など社内でサーバーを個別に持った場合に比べ、コストが半分以下になったなどの事例が相次ぐ中、Twitter などリアルタイムという潮流もコスト削減効果を顕在化させている。例えば、外回りの営業マン。顧客からの問い合わせにほぼリアルタイムで対応することで、取り逃がしていた機会損失をカバー。会社に戻らなくても、営業結果を入力できたり、顧客からの急な問い合わせにもその場で資料をiPad表示できるなど。

また、全国各支店からの営業結果をコラボレーション/オンライン化して、一つのシートにほぼ同時に書き込んでもらえれば、本社での取りまとめ作業というムダも省ける。個人的には、留学中07年に数百人の学生が住所、電話番号、趣味などをスプレッドシートに同時に書き込み、リアルタイムでサクサクと書き換えられていたシーンが衝撃的だった。

4) 安全性の担保

クラウド最大の懸念はセキュリティだが、「メールの中身を見られるのでは」などGmailへのプライバシー不安が時間と共に低下したように、クラウドコンピューティングへのセキュリティ不安も静まってくるはず。世界最高峰の技術でカバーしてくれるクラウド陣営によってね。そして何より、バージョンアップ毎に殆ど使わない機能をふんだんに組み込んだ重いファイルを意図的に作り出し、パソコンの起動速度を低下させ、買い替えを促す策略ともおさらばできるのがありがたい。

クラウドコンピューティングの本質

ラジカセに比べ性能は圧倒的に劣るものの音楽を手軽に持ち運べるようにしたウォークマン、それをデジタル化したiPod。電話、メール、簡易なデータを持ち運べるようにしたi-mode、様々なアプリを持ち運べるようにしたiPhone。そして、軽量化だけでなく起動時間を1秒に短縮したiPad

音楽をListening、携帯電話を音声端末からデータ端末/ mobile computing へと変えた流れの本質は、移動/待機時間から生み出されるムダをリアルタイム化によって省く「ing」化。anywhere + anytimeの中でムダをそぎとる化学反応がクラウドの世界で起こり始めており、所有価値から「利用価値」への潮流、それがクラウドコンピューティング

ムダを省くとは」でも触れたように、コスト削減に関する至言を紹介。

  • 耶律楚材いわく、「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」・・・・一つの良いこと新しいことをやるよりは、一つの悪いこと不要になったものを取り除いていく方が効果的、という意味。
  • トヨタ生産方式の発明者 大野耐一氏いわく、「顧客の注文を受けてから現金を手にするまでの時間の流れを見て、付加価値を生まないムダを取り除くことで、その時間の流れを短縮する」・・・作業工程を改善する場合、付加価値を生みだす生産設備をいじくりがちだが、付加価値を生む行程の割合は通常、非常に小さいので、その部分を改善しても大した効果はでない。付加価値を生まないムダを排除するという、もっと大きな改善チャンスに多くの人は気づかない。