長期的視点とダム経営 II

ダム経営

「ダムのように内部留保を貯め、資金ショートしないように備える」という松下幸之助のじいちゃんの有名な経営理念。ある講演会で、聴衆から「ダム経営の理念は分かったが、具体的にどうやったらできるのか」との質問に対し、幸之助のじいちゃんは一言、「ダム経営をやろうと思うことですな」と答えたそうな。会場からはなんだそんな事かと失笑が起こったが、聴衆の一人、京セラ創業者の稲盛和夫氏だけは衝撃を受けたとのこと。

「何か簡単な方法を教えてくれというような生半可な考えでは経営はできない。まず『そうありたい、自分は経営をこうしよう』という強い願望を持つことが大切なのだ。そのことを松下さんが言っておられるのだと感じたとき、非常に感動した」のだと。

経営者の視点

ビジネススクールの学生や経営幹部も判断要素の多くを委ねてしまいがちなモデリングソフト。最悪の状況を想定していたとしても、想定外の悪い出来事が重なり、それらが複雑に絡み合い、長期化しがちな現実の世界では通用しない局面が多々ある。MBAホルダーの著名アナリストらが批判する京セラの現金保有のムダ。実際、借入金の30倍超のキャッシュ6,000億円を保有し、苦境に陥った企業の「駆け込み寺」とも揶揄されるが、経営を肌で感じたことのない彼らには不測の事態を乗り切る有効な知恵「余裕資産」が、近視眼的にムダと写ってしまう。

Harnischfeger社幹部も、後がない企業再生局面では過去の資産を利益に変える錬金術も必要だった。しかし、再生を果たし軌道に乗って以降は、「ダム経営」を念頭におき、会計政策を最低でも中立に戻し、大幅な人員削減に頼らず、長期的視点に立った戦略を実行していたなら、苦境も乗り越えられただろう。

最後に、50歳を超えたチンギス・ハンが20代の若者に一目ぼれし、宰相として迎えた耶律楚材(ヤリツソザイ)の名言を紹介。

「一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」-耶律楚材

一つの良いこと新しいことをやるよりは、一つの悪いこと不要になったものを取り除いていく方が効果的、という意味。その際、とりわけ削減・撤退局面では、肝心要のところ、将来の稼ぎ頭になる可能性のある成長の芽を見極めることが大事と教えてくれる言葉。