「左遷の哲学」-嵐の中でも時間はたつ

将棋棋士 中原誠 永世十段が無冠になった時、ある方から贈られた本が今回の題材「左遷の哲学」。
その中でも彼が感銘を受けた句が、以前逆境における身の処し方 で紹介した「風車、風が吹くまで 昼寝かな」。A級戦犯として文官で唯一絞首刑となった広田弘毅 元総理が、49才のときオランダ公使に左遷、その際にさらりとした心境で詠んだ句。
「今までずっと勝ち続けていたのだから、少し休んでもいいんじゃない」と、気持ちを入れ替え心の置き所を変えた中原 永世十段は、3ヵ月後にタイトルを奪還。

人物鑑定法: 人間性が現れる瞬間

人物鑑定法としても参考になる箇所を紹介。とりわけ人物洞察の5つのメルクマールは、プラス・マイナス両局面から全体像を推し量る陰陽思想の応用例ともいえる。

a. 死に直面 (極限状態/艱難辛苦)

ユダヤ人であったためアウシュビッツ収容所に送り込まれた精神分析学者フロイトの弟子、フランクいわく、「本能的・無意識的に同胞を売り、同胞の死を見ながら平気でパンを食べる人もいれば、ごく自然に自分のかけがえのない命を捨てて、同胞を助けようとする人もいる。その違いは何か。本能を支配する無意識の世界の底に、さらに深い無意識の層があって、そこからの呼びかけに答えた者が、大勢の人々の幸せのために、やすやすと最も大事な命さえも平然と捨てることができる。」

b. 人物洞察の5つのメルクマール

魏の開明君主 文公を補佐した李克が、君主から宰相の人事について問われた時、具体的な人名をあげず、人物鑑定の基準を5つ示したのが「人物洞察の5つのメルクマール」。簡単にいうと、好調不調の極限状態のとき、「人と金」に光を当てれば大まかな全体像が浮かび上がるということ。

  1. 不遇のとき、だれと親しくしていたか: アリストテレスいわく、「友達は第二の自分である」
  2. 富んだとき、何に使ったか: 幸之助のじいちゃんいわく、「金の使い方くらい難しいものはない。なぜなら、人格がそっくりそのまま反映するから」
  3. 高位についたとき、だれを登用したか: シリコンバレーの格言いわく、「Aクラスの人はAクラスの人を採用したがるが、Bクラスの人はCクラスの人を採用したがる (一流の人は一流の仲間を増やして向上しようとするが、二流の人はライバルを作らないよう自分より能力が劣った人を採用したがる)」
  4. 窮地におちいっても、悪あがきしなかったか: 孔子いわく、「君子もとより窮す。小人窮すればここにみだる (君子といっても窮することはあるが、小人が極限状態になると、自暴自棄に陥って取り乱す一方、君子は泰然自若として取り乱したりはしない)
  5. 貧しくとも、むさぼろうとしなかったか: