企業経営失敗の本質

これまで定説化されていた企業経営失敗の7つの俗説、最終的には経営トップの無能説では、なぜ「名経営者」が失敗するのか説明できない。今回はより普遍化した原因を探るため、6年にわたり約51社の大失敗事例を調査・研究した「名経営者はなぜ失敗するのか」を土台に、「企業経営失敗の本質」、「教訓I」、「教訓II」、「教訓III」の四部構成。

企業経営失敗の7つの俗説

内部要因(経営トップ要因)
  • バカ: 無能・愚かだった説、大企業の経営者になる人材は若い時から秀才、むしろ失敗の規模が大きいほど、より優秀であるような逆相関の関係
  • 先見性なし: 頭は良かったけど変化に気づかなかった説、実際は皆、環境変化の存在自体は明確に認識
  • 努力不足: 遊びほうけていた説、実際は24時間会社に奉仕
  • リーダーシップ欠如: 戦略を決めても、トップが組織を引っ張ることができなかった説、実際は逆で、「カリスマ的」と称されるリーダーも多数
  • 悪党: 単純に悪者だった説、エンロンは例外として、殆どは善良な経営者
外部要因
  • 実務レベル: 現場が低レベル説、現場のトラブルだけが原因の事例なし
  • 資源不足: 経営資源がもともとなかった説、大失敗をするにはそもそも資金など資源が豊富

失敗の主要4局面

✓新規事業
イノベーション導入や変化に対応(無為無策で失敗)
M&A
✓競争相手に反撃(非合理的戦略で失敗)

失敗の原因

✓経営トップが会社を取巻く現実を見誤り、誤ったビジョンを遂行する
✓過信と傲慢さが社内で悪性化、現状認識の誤りに気づかない
✓社内コミュニケーションシステムが崩壊している
✓リーダーシップに問題が生じ,軌道修正ができない

失敗は大きく舵を切る4つの局面でおきやすく、そこでは企業が抱えていた弱点が表面化しやすい。次に大失敗とは、まず道を誤り、途中で軌道修正せず突き進み損失額が巨大化することなので、その主な原因は、現状認識を見誤る要因と、それを修正できない要因に分かれる。その元凶である経営トップ、大失敗の要因を広くカバーした彼らに共通する7つの習慣と、大失敗を助長する社内体質は以下のとおり。

大失敗するトップの7つの習慣

1. 自分や自社が環境を支配していると考え、素直に環境に対応しようとしない

成功体験や自社製品の優越感に浸り、自分たちがあたかも環境を支配(事業環境を演出)できるような錯覚に陥る→「時代は変わった」と頭では理解できても、「オレならこの環境自体を何とかできる」との思い込みや既得権を失うことへの拒絶反応などにより、変化への対応が遅れる→こういうCEOはおおむね威圧的なので、社内にも彼らを怒らせる情報は隠匿しようというインセンティブが作用→顧客との距離拡大 (e.g. 顧客のトレンド変化に気づかずトップシェア没落、取引先への横柄な態度、最高の製品を提供すれば客はむこうからやってくる、離れていった顧客はすぐに取り戻せる)

2. 自社と自分を完全に同一視、公私混同する

自分が会社の立役者だと思っている場合、自分自身の延長とみなす傾向大→個人的野心追求の道具(趣味の延長や「よりビッグに」というエゴの追求)+自分にとって最適な判断(自分の敵は会社全体の敵、個人的偏見に固執、自分の得意分野だけに特化)+自分の金と錯覚しリスクの大きな巨大事業に投資→会社にとって無意味な戦略に着手→現状認識に対する誤認の温床+組織全体のモチベーション低下

3. 自分を全知全能だと勘違いする

素晴らしい決断力を見せつけてきたトップほど、部下の前で「知らない」とは決して言えない→矢継ぎ早に決断を下していく有能な自分の姿に酔いやすい→トップの取り巻きも全知全能ではないことを知りながらも、そのほうが楽なため茶坊主へと変身→支配欲も増大→あらゆることに口を出そうとし、権限を委譲せず→最終的に誰も信用しない

4. 自分を100%支持しない者は排斥する

仮に反対論者がいると、自分のビジョンにケチをつけられたような気がして気に食わない→高圧的態度による排除→トップが名経営者であればあるほどこの傾向大→社内にも彼らを怒らせる情報は隠匿しようというインセンティブが作用→周囲をイエスマンばかりで固めた組織は、失敗に向かって進み始めた時、ブレーキを持たない暴走列車へと変貌

5. 会社の理想像にとらわれ、会社の「完璧なスポークスマン」になろうとする

社会の注目を浴びることの多い有名CEO、とくに会社のイメージ作りを重要視するタイプにありがちな傾向→マスコミにチヤホヤされている間に本業そのものが手薄→会社のスポークスマンになりきり、会社のイメージ作りやその管理に最大の努力→いつの間にか世間の期待に答えることが目的化され、有価証券報告書さえも会社のイメージづくりのためにツール化→最終的には粉飾に手を染め、ウソをウソで覆い隠す悪循環へ

6. ビジネス上の大きな障害を過小評価して見くびる

優秀であるが故に陥りやすい壮大なビジョン(ときに採算性の合わない戦略、現実離れした構想など)、自らの描いたそのビジョンに酔いしれるあまり、実現に起こりうる困難を過小評価→その困難が予想以上だと知ると自説に固執→それが本質的に誤っている場合、自らの過ちを認められない精神面の弱さ×困難に対し初心を貫こうとする決意の固さ=小さな失敗が大失敗へ

7. かつてうまくいった成功体験にしがみつく

自分にとってピンとくる選択肢=過去に成功した実績ある選択肢を選ぶ傾向大→その判断が自分の人生を変えたり名経営者へと押し上げる原動力となるなど、影響力が大きければ大きいほど、不確実性が高い環境下では、その枠内から抜け出すのは困難→その判断はもともと紙一重だったため、リスクの高い戦術をとる傾向大→ひとつのことから強烈に学びすぎた判断は、組織をより窮地へと追い込む

大失敗を助長する社内体質

誤認の土壌: うまく行き過ぎると、向上心を失い、守りに入り、視線が内向き、態度が横柄になる→流通側から顧客との意識のズレを指摘されても修正せず→慢心が顧客との距離を拡大
追認の土壌: うまくいっている状況下では誰もあえて異を唱えて、幸せな雰囲気を壊したくないという雰囲気が蔓延→あらゆる階層で会社の方針に盲従、問題に気づいても見て見ぬふり→たとえ状況が悪化しても悪い情報を伝えるインセンティブがなく、逆にそれを抑制するインセンティブが働く場合多い→トップに悪い情報が伝達されにくいシステム→悪い情報を隠したり、時には隠蔽する社風の完成

小さい頃から神童扱いされ、実務面でも輝かしい勲章を胸にマスコミからも絶賛された名経営者、そんな成功体験が他人から学ぶことをとりあげ、「慢心・うぬぼれ」が現状認識を狂わせ、道を誤まり、失敗を認められない、知らないとは言えない、批判を受け止められない「精神的弱さ」が軌道修正を妨げ、本来ブレーキとして機能すべき「社内システム」も故障していたため、誰も止められるまま暴走列車は大失敗という最終駅まで進まざるをえなかったという感じ。大失敗とは、トップが名経営者だからこそ起こる大成功の裏にある陥りやすいワナで、トップが自らを名経営者であると認識したときが、その始まりともいえる。

失敗の本質とは、「客観視→自己否定→自己改革」、「マイナスの情報を伝達するシステム構築」の難しさの裏返しで、失敗と素直に向き合いそこから学ぶこと、best practiceだけでなく worst practiceの重要性を認識すること