大企業病の本質

不祥事に対する経営トップの謝罪会見でよく耳にする一言、「知らなかった」。実は、「名経営者の失敗」同様、重大事だからこそ、大企業だからこそ、優秀な人材が集まるからこそトップに伝わらない仕組みがあり、そこに大企業病の本質がある。ではなぜトップの関与しないところで隠蔽・不正工作が進行するのか?

誤った忠誠心&組織防衛思想

  • 総会屋対策

トップの知らないところで、長年総会屋に利益供与を続けていた事実が多くの大企業で発覚。彼らを支えていたのは、罪の意識はありながら、万一発覚したときはすべての泥を被ろうという誤った忠誠心。総会担当者に配属されるのは、実務能力は高いが地味な人材であることが多く、エリート社員が配属されることは稀。彼らが企業に貢献している実感を味わうには、こうした歪んだ形しかなく、大企業の裏側に隠れた悲しい現実。彼らの新任上司も葛藤のあげく、今さら事実を報告して混乱させるのは企業利益に反するとの結論に達し(実質は自己保身)、前任者と同じ隠蔽の道を選択。負の連帯感と負の連鎖による組織ぐるみの隠蔽工作

不良債権問題担当者の共通点は、エリートであったが故のワナ、「最高機密事項に携ることで、銀行を背負っているという強い意識」。歪んだエリート意識による精緻な隠蔽工作

両者に共通するのは、「社会の規範には反するかもしれないが、企業の利益には大いに貢献している。我々こそがその先兵だ」という信念。大組織の中に埋没すると、いつの間にかその企業だけに通用する価値観やモラル、つまり大企業病を育てる社風に染まってしまうという典型例。

小さなウソの呪縛

長銀不良債権問題では、当局や格付機関をごまかすための「小さなウソ」でスタートしたが、調査精度が高度化していくにつれ、矛盾を指摘されないよう「大きなウソ」で塗り固める悪循環へ。次第に行内には「頭取用」「担任役員用」など数種類の資料が使い分けられ、報告が上にあがるほど「安心材料」をまぶすようになり、90年代後半ではさすがに隠しきれず経営陣に実態を伝えたが、すでに手遅れ。

経営者の能力の限界&ブラックボックス

例えば、東京電力原発問題。高度な専門知識が必要で、実質的検査も製造者のGE。歴代トップは、南社長はじめ企画部門などいわゆる保守本流のエリートコースを歩いた者が多く、いつの間にか原子力部門がブラックボックス化し、事業リスクを理解できず放任。今回のサブプライム問題も同類。

部門間抗争

三井物産が典型で、部門の独立採算制が強く部門間の人事交流が少ない場合、業績争いに加え、あら探し合戦も激化。トップ人事にも直結するため、各部門ともライバル部門に尻尾をつかまれまいと、経営ミスや不祥事を徹底的に隠蔽する傾向。特にトップがライバル部門出身であればなおさら。

M&Aでも合併が決まったとたん、相手企業に弱みを見せまいと徹底した隠蔽工作合戦に陥りやすい。合併して誕生したメガバンクも、不良債権のすりあわせやメイン先の問題企業の整理を遅らせ病状悪化。

大企業病の本質とは

「会社のため」とは建前で、本音は問題を表面化させると出世に響くから、会社がつぶれると路頭に迷うからという「自己保身=人事問題」、その解決策を隠し通せれば大丈夫とか、これくらいのことは誰でもやってるなど誤った倫理観に逃げ込み、それを社風として正当化しようとする「精神的弱さ」。一方で、経営陣に異論を唱えると左遷されるからという「人事問題」と、頭では分かっていながらしがらみにより行動できない、現実と向き合えない経営陣の「精神的弱さ」が、環境への対応を遅らせてしまう。結局、大企業病とは、「人事問題」と「精神的弱さ」に宿る病気で、対処療法もしがらみと決別する「勇気」と抵抗勢力からいかに「人事権」を奪い取るかにかかっている。