スランプ克服・脱出-II

自己変革: 50歳を目の前にして、悲願の名人位を獲得した米長邦雄「既存概念を捨てれば道は開ける」

長所を伸ばすこと、あるいは欠点を見ないこと。「まさかあんな相手に負けるとは・・・」と落ち込んでいるときこそ、勝った将棋を並べ「俺は強いんだ」と鼓舞し、勢いづけること。
40代半ばの頃、どうしても20代の棋士には勝てなかった。ある若手棋士に尋ねたところ、「先生と指すのは非常に楽。先生は、この局面・形になったら絶対逃がさない得意技をいくつも持っている。一方、対策を立てているこちら側は、自分のパターンに入ったと先生が思うときを待っている。あるいは誘導している者さえいる。それを先生はご存知ないから、僕らとしてはやりやすい」。ではどうすればいいのか・・・
その若手棋士いわく、「自分の得意技を捨てること」。これまでの将棋人生の中で無意識のうちにつくりあげてきた将棋観や指しなれた筋などの既存概念、それがサビついているのなら、「捨てて」新しい物と入れ替えよ。常に自己を客観視-> 否定-> 変革することが勝ち残る必要条件。セブン&アイHD会長 鈴木敏文さんいわく、「プールの水をきれいにするには、汚れた水を抜いてから新しい水に入れ替えたほうが、確実で早い

嫉妬心の克服: 谷川浩司 棋士「自分は自分」

史上最年少名人となり一時代を築いた谷川浩司さんに、史上初の7冠をかけ王将戦で挑んできた羽生義治 さんに負けた経験より。

当時は羽生さんのことを意識しすぎるあまり、自分がそれまで培ってきたもの、自分という木の幹の部分までおかしくなっていたように思う。調子が悪いときは、往々にして視野が狭くなり、殻にこもりがち。スランプから抜け出せたのは、最終的に「自分は自分」と考らえるようになったこと。そのきっかけが嫉妬心を克服できたこと。王将戦で敗れ、無冠になったことで、もはや比較すらできない。そうなると、妙に気持ちがすっきりして「自分は自分、羽生さんのことを考えるより自分にできることをやろう」と思えるようになり、平常心を保てるようになった。

臨床心理学者の河合隼雄文化庁長官いわく、「嫉妬とは、可能性の発露」。オレにだって同じことができるのに、と思うからねたましく感じる。そのくせ人は、嫉妬心を否定したがる。そのため、膨大にムダな時間とエネルギーを浪費しがち。それなら、嫉妬心を素直に認め、「自分に可能性があるからだ、自分は勝てるんだ」とプラス思考で受け止め、相手に対する感情を自分に向け、克服するエネルギーを自分の可能性に投資してはどうか。

コンプレックス解消: ユング「コンプレックスを受け入れ+プラスの面に光を当てよ」

これまで攻撃的な面(コンプレックス)を抑えてきた学生が、大学に入学。大学生活に慣れるにつれ、攻撃性はある同級生に投影され、攻撃的な同級生との戦いがスタート。競争が相互に激化するにつれ、「まったく憎らしいヤツ」と腹を立てる一方、「なかなかやるな」という気持ちも芽生える。そして両者の攻撃性が頂点に達した頃、この学生は「相手が案外 親切ないいヤツであること」を発見して驚く。宿敵だと思っていた男が、実は味方だったのか・・・そんな一種の混乱を味わいながらも、攻撃的なのは相手ではなく、実は自分自身であったこと(投影のひきもどし)、加えて適度に攻撃的であることは決して悪くないことに気づく。最終的には、競いながらも友情を感じあえるよきライバルとなる。

コンプレックス解消の大まかな流れは、カウンセラーとの話し合いを通じて-> だんだんとコンプレックスの存在を認め・受け入れ-> コンプレックスのプラスの面に気づき-> コンプレックスが自我の中に取り込まれ-> 問題解決。

心理学者 ユングいわく、「コンプレックスはその自我にとっては、否定されるものと写り、破壊的な攻撃性と受け取られる。しかし、自我の中に統合された場合は、むしろ望ましい活動性として見られることも多い。このようにコンプレックスの否定的な面のみならず、肯定的な面をも認めようとする建設的な姿勢こそ、コンプレックス解消へとつながる。」