艱難辛苦に耐える知恵

ガン告知を受けた患者の精神状態の推移を見ると、

ガン告知-> 何かの間違いでは/ あの先生はやぶ医者ではないかという「拒否・逃避」-> どこの病院に行っても同じ結果 -> 何も悪いことしてないのになぜ私なのという「怒り」-> 怒りの矛先が親族や病院スタッフへ-> 新薬でも開発されないか/ 神仏のご加護で助けてもらえないかという「淡い期待」-> 死への恐怖や残された家族へ思いを巡らす日々「うつ症状」。
そして、最終段階は大きく二つ。最後まで生に執着する人と、しかたないなと諦め、死を受け入れる人。死を受け入れると、うつ症状から開放され、生かされ支えられていることに気づき、周りの人々や自然のいとなみに感謝の心を抱くようになり、穏やかな表情を取り戻すという。*1

加えて、自殺未遂者に関する調査で、大多数80%は「後で死ななくてもよかった」といい、その理由として大部分75%が「心構えが変わった」という。

艱難辛苦の頂点ともいえる「死」。それを乗り越えるには、現実を素直に受け入れ、心の置き所を変えること。コンプレックスを解消する過程でも、カウンセラーとの話し合いを通じて-> だんだんとコンプレックスの存在を認め・受け入れ-> コンプレックスのプラスの面に気づき-> コンプレックスが自我の中に取り込まれ-> 問題解決する。最終的には、頑張っている自分を「もう頑張らなくてもいいんだよ」と許してあげること。終止符を打ってあげること。そうすれば方向を変えられるので。
今回は、「素直に受け入る」ことを中心に、艱難辛苦という試練を乗り越える知恵を紹介。

1) 心構え: 四耐「冷苦煩閑」

  • 人間が耐えなければいけないことを4つあげた曾国藩いわく、「人生、冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、閑に耐え、もって大事為すべし」。冷遇に耐え、苦労に耐え、煩雑なことに耐え、逆境に耐えることが大事だよ。
  • 電力の鬼 松永安左エ門さんいわく、「実業人として完成するためには、3つの段階を通らぬとダメ。長い闘病生活、浪人生活、獄中生活。私は3つとも経験したが、このうち1つくらいは通らないと、実業人のはしくれにもならない」

2) 心の置き所:

a. 受け入れ-> 忘れて-> 残されたもので最大化

  • 安岡正篤 先生いわく、「人間、泣いても笑っても苦しんでもどうにもならないことは、忘れたほうがいい。人間に忘れるという機能がついていることはありがたいこと。気持ちを切り替え、残されたもので人生を切り開いていこう」。
  • 茂木健一郎さんいわく、「(祈祷や占いなど)コントロール不可能なものを何とかコントロールしようと妄信し、深みにはまっていくのは、脳が陥る悲劇の最たるもの」

b. 受動的な受け入れ方: 任天・任運

多くの日本人は、お賽銭の額に見合う幸せが 神仏から自動的に出てくる「幸せの自動販売機」のように捉えているが、所詮、世の中は天の気まぐれ、スロットマシーンのようなもの「気まぐれなスロットマシーン」。そんな気まぐれを天命と受け止め、いかなる艱難辛苦にあっても自分を成長させる機会だ、これを乗り越える機会をわざわざ天が与えてくれたのだと、超ポジティブにとらえる陰から陽への心の持ち方。あるいは、どうせなら人生の辛酸というメニューを片っ端からなめつくし、人生をしっかりと味わってみようという肝の据わり方。
そうすると、不幸を嘆く欲への執着「自我」から解き放たれ、艱難辛苦を素直に受け入れられるようになる、いわゆる「無我」。転じて、能動的ではなく受動的に自分の存在を見つめ直し、生かされ支えられていることに気づく、いわゆる「自己確認」。自我-> 無我-> 気づき-> 自己確認 = 救われている自分の発見。

  • 「天を楽しみ、命を知る。故に憂えず」-易経
  • 「死生命有り、富貴天に在り」- 論語

人間というのは、常に心配事が多い生き物である。あらゆる努力をした後は(後悔しないような行動をとったなら)、どんな結果であれ、それを天命(宿命)と思って全てを受け入れなさい。「天がこうした方がいいと示してくれたのだ」と勝手に思い込むことでポジティブになれる。

c. 能動的な受け入れ方: 自分で選んだ人生

飯田助教授の生きがいシリーズいわく、「生まれる前に自分で計画しておいた予定通りの失恋。人生のこの時期この段階で異性関係について大いに学ぶよう自分で人生計画を立てていたからで、そのために最適な現象として失恋という試練が生じた。その人と失恋する体験が、どうしてもいま必要だった。予定通り順調に体験できたので、今後はその体験を活かしていけるはず」。

艱難辛苦があれば-> まずその意味を考え-> それをいま学ぶ必要がある-> だから試練が目の前に現れた-> でも自分で立てた計画通りの試練なので むしろ順調な証拠-> めっちゃ険しい試練でも自分で立てた計画なら その解決法も心の奥底では知っているはず-> たとえプラスの意味など見出せないような計画外の試練にあっても、それを乗り越えられる選ばれた貴重な存在なんだ、計画内のルートでは上れないより高みの境地に達する試練なんだ。

3) 身の処し方:

a. 動かずじっーと待つ: 潜龍

A級戦犯として文官で唯一絞首刑となった広田弘毅 元総理。49才のときオランダ公使に左遷、その際にさらりとした心境で詠んだ句、「風車、風が吹くまで 昼寝かな」
地下数千メートルに閉じ込められた2.5億年前の海水から取り出した微生物、それを栄養豊かな条件で培養すると増殖しはじめ、2.5億年の長い眠りから目覚める。栄養もエネルギーも必要とせず、排泄物も出さず、わずかな海水の中でただじっとしているが、2.5億以上もたって増殖できるだけの環境に置かれると、再び増殖し始める。「休眠」とは、微生物が半永久的に生き延びるための驚異的な戦略で、熱水、地下、強酸性の環境など極限下に住む多くの微生物が生み出した生き残りをかけた知恵。その核心は、単純にも機が熟すのをただひたすら待つ忍耐力。

b. 冬だからできること: 滋養の冬

冬の時期には、その季節だからこそできることがある。春に種を蒔くにも事前準備が必要。夏に向けて大きく成長するためにも、球根により多くの養分を蓄える必要がある。

c. 苦しい時は教えたで、こうやって笑うだで、デレシシシ: 脳のバランスを回復

茂木健一郎さんいわく、「脳とは結局、身体。脳が疲れれば身体が疲れ、身体が疲れれば脳が疲れる。悲観的になる。怒りっぽくなる。何も考えられなくなる。そんな時は身体を休ませると同時に、脳のバランスを回復させることが大切。脳をバランスよく使ってあげることが、脳を疲れさせない秘訣。・・・行動学の理論「楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しい/ 悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」のように、認識も感情も脳による部分が多い。悲しくなったら、口元を左右に思いっきり引き上げると、脳内回路が楽しい気分を生み出してくれる。」
One Piece ハグワール・D・サウロ いわく、「(バスターコールにより故郷が島ごと消され、1人ぼっちになった少女ロビンに向かって語った最期の一言) 苦しい時は教えたで、こうやって笑うだで、デレシシシ!!」

d. 人間はそういくつもの悩みを同時に悩めるものではない

松下幸之助のじいちゃんいわく、「経営者には、一度にいくつもの問題に直面して、あれこれ思い悩むという場合が少なくない。しかし私はいままでの経験で、人間というものはそういくつもの悩みを同時に悩めるものではないということに気づいた。結局、一番大きな悩みに取り組むことによって、他の悩みは第二、第三のものになってしまうもの。だから、百の悩み、千の悩みがあっても、結局は一つだけ悩めばよい。一つだけはどうしても払うことができないが、それと取り組んでいくところに、人生の生きがいがあるのではないか。そう考えて勇気を持って取り組めば、そこに生きる道が洋々と開けてくると思う。」

e. 問題解決を焦る前に: 灯を消す方がよく見えることがある

沖合に船で釣りに出かけ夢中になっているうちに、辺りは暗くなり、潮の流れも変わってどこだか全く分からない。月の明かりさえない。必死になって灯をかかげ、何か目印を探そうとするが見当もつかない。そんな時、ある人が「灯を消せ」と叫んだので、灯を消すと辺りは真っ暗。しかし、徐々に目が慣れてくると、暗闇と思っていた遠方に町の明かりがうっすら浮かび上がる。進むべき方向が分かり、無事に帰ってこれたという話。
臨床心理学者の河合隼雄文化庁長官いわく、「不安にかられ、灯をともしてあちこちをうろうろする人に対し、灯を消してしばらくの間、闇に耐えてもらうのが心理療法家の役割。目先を照らす灯を敢えて消し、闇の中で目を凝らして遠い目標を見出そうとする勇気は、誰にとっても人生のどこかで必要なこと。」

*1:「死ぬ瞬間-死とその過程について」いわく、心の動きには「否認と孤立-> 怒り-> 取り引き-> 抑鬱-> 受容」 の5段階があるが、重要なのは告知という当面の悲劇より患者への共感。