易経IX-感謝の心と陰陽思想

感謝の心と陰陽思想

人間にとって一番大事な命。死生観を陰陽思想の基本、「陽を伸ばすものは陰の力で、陰を伸ばすものは陽の力。どちらか一方がなければもう一方も存在し得ない」に当てはめると、死が陰で生が陽。ガンの告知など「死」を目の当たりにして初めて(窮まれば変ず)、生きていることの意義をかみしめ、自分が「生かされている(陰)」と悟り、身の周りのもの全てに「感謝の心(陰)」を持つにいたったという書物が多い。

似たようなロジックをあげると、

  • 不慮の事故で、ただ一つ動かせる口に筆をくわえ絵と詩を描き続けた星野富弘さんいわく、「いのちが一番大切だと思っていたころ、生きるのが苦しかった。いのちより大切なものがあると知った日、生きているのが嬉しかった」
  • マキャベリいわく、「天国に行くのに最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである」。

強運を持っていた幸之助のじいちゃん。数々の艱難辛苦を味わい、努力や精進だけではどうしようもない天のいたずらに翻弄されながらも、衆知を集める魔力で3つの「キ」気機期の中心を射抜くことに、誰よりも研鑽したが故の極みが(窮まれば変ず)、天運への感謝の心に結実。それが成功の秘訣?・・・「9割は運やな」。幸之助のじいちゃんの器の大きさを反映した言葉でもあり、陰の要素はやはり器量につながる。その代表格が「感謝の心」。その至言が「感謝は実力を倍化させる打ち出の小槌なり」。それを熱海会議で実演した名優が幸之助のじいちゃん。恩=因+心=原因を心にとどめる、恩を引き合いに聴衆を敵から味方へ変えたドラマへ・・・

過去最大の危機にさらされていた松下電器を救った「熱海会議」でのフィナーレ

『(1日延長し3日目を迎えても「押し込み販売」など松下電器への苦情が止まない全国代理店の社長約200人を前に) 苦労したと言われるけれども、血の小便がでるまで苦労されたでしょうか。一昨日から皆さんはいろいろ苦情を言われました。それに対して、私は皆さん方にも悪い点があると思います。今日集まって頂いている中にも30数社は、ちゃんともうけておられる。松下電器が申している理屈に、分がないとは思えません。

しかし、2日間十分言い合ったのですから、もう理屈を言うのはよそうではありませんか。よくよく考えてみますと、結局は松下が悪かった。この一言につきると思います。皆さんに対する私どものお世話の仕方が不十分でした。不況なら不況で、それをうまく切り抜ける道はあったはずです。それができなっかたのは松下電気の落ち度です。本当に申し訳ありません。

私は、今から30年近い昔のことを、ふと思い出しました。電球をつくって皆さん方に売りに行ったときのことです。「今はまだ電球については信用や品質ともに超一流ではありません。いわば幕下です。しかし、将来きっと横綱になってみせます。どうかこの電球を売って下さい。」 私は、こうお願いして参りました。いや、ほかのものならともかく電球だけは売りたくないとか、値段を安くしたら売ってあげてもいいとも言われました。私は、「いま皆さんにこれを育てて頂くことができなかったら、どうしても超一流の電球は日本には生まれない。そうお考えになって、皆さんのお力で横綱に育ててほしい」と頼んだのであります。

よし、分かった。君がそこまで決意して言うなら売ってあげようといって電球を大いに売って下さったのです。そのおかげで、松下電器の電球は世の中に出、その後も改良に改良を重ねて、今日ようやく名実ともに横綱に育ったのです。そういう並々ならぬご愛情なり、力を頂いている松下電器が、今日の体たらくは、実は申し訳ない不始末だと思うのであります。力なき姿であった時の松下電器でも、このように共鳴していただいて、ご商売をして頂いたのであります。

そういうことを考えるにつけ、今日、松下電器があるのは、本当に皆さん方のおかげです。私の方は一言も文句を言える義理はないのです。恩顧を忘れてしまって、ものを見、判断し、考えるから、そこに一つの誤りなり弱さが現れてくると思うのです。これからは、心を入れ替えて出直したいと思います。そのことをお約束します。』

艱難辛苦に感謝

人間の弱さ、もろさ、それを跳ね返すしぶとさを戦後のシベリア抑留を通して体験した瀬島龍三氏いわく、「朝起きると隣のベッドの友人が冷たくなっていた。階級も学歴も貧富の差も育ちも関係ない。腹ペコ、極寒の中での重労働、それがいつ帰国できるか分からないまま11年以上も続いた極限の状態。そんな中、平然と仲間をソ連に売り渡す者もいれば、友人が病気になると、自分のパンの1/3を切って“おい、はやく良くなれよ”と言って渡す人いる。並べてあるパンの中から少しでも大きなものを順番に関わらず持っていく人もいる。」

シベリア抑留の体験談からも分かるように、人間の真値は艱難辛苦の際に表面化する。その艱難辛苦を素直に受け入れ、「窮まれば変ず」の法則に従い、陰の思考を真のプラス思考で「自分を成長させる機会だ」と心の置き所をかえられるかどうか。

チューリップは、球根を冷蔵庫に入れていったん寒さを体験させ、春化現象を与えれば、早い時期にも開花する。韓非子いわく、「冬日の閉凍や固からざれば、すなわち春夏の草木を長ずるや茂からず」。Easier said than done の艱難辛苦、それを耐え忍ぶ心構えについて、先人たちの知恵をちょっこと紹介。詳細は「艱難辛苦に耐える知恵」参照。

1) 四耐: 冷苦煩閑

人間が耐えなければいけないことを4つあげた曾国藩いわく、「人生、冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、閑に耐え、もって大事為すべし」。冷遇に耐え、苦労に耐え、煩雑なことに耐え、逆境に耐えることが大事だよ。

2) 逆境における身の処し方: 動かずじっーと待つ「潜龍」

A級戦犯として文官で唯一絞首刑となった広田弘毅 元総理。49才のときオランダ公使に左遷、その際にさらりとした心境で詠んだ句、「風車、風が吹くまで 昼寝かな」

3) 逆境における心の置き所: 忘れ(受け入れ)->残ったものを最大化

安岡先生いわく、「人間、泣いても笑っても苦しんでもどうにもならないことは、忘れたほうがいい。人間に忘れるという機能がついていることはありがたいこと。気持ちを切り替え、残されたもので人生を切り開いていこう。」

4) 冬だからできること: 滋養の冬

冬の時期には、その季節だからこそできることがある。春に種を蒔くにも事前準備が必要。夏に向けて大きく成長するためにも、球根により多くの養分を蓄える必要がある。
陰で見ると、100年に一度といわれる世界的不況。陽でみると、100年に一度の好機。timing is everything といわれる投資の世界。氷河期から春の訪れをつげる「機微」、まだ現象化されない潜み隠れた震えのような物事のかすかな動き、絶妙のタイミングを逃さぬよう、「時」を見極める洞察力と「兆し」を察する直観力を高めたいと思ったのが、今回の題材の動機。そのために、なぜ今回のサブプライム問題が起きたのか、大局・多面的視点で分析したのが以前のバブルI-VIII