「集中力」-谷川浩司

次は、史上最年少名人となり羽生義治さんのライバルでもある谷川浩司さんの著書「集中力」より・・・

勝負を決める二つのポイント

将棋は悪い手を指した数で勝負が決まるのでなく、最後に悪い手を指したほうが負けるゲーム。相手のミスを待つわけではないが、苦しい将棋に勝つには相手がミスをしなければ勝てない。だから、相手の立場に立って、

  • 優勢時: 相手の選択肢をできるだけ少なく (局面を単純化)-> 迷わず読みやすい
  • 劣勢時: 相手の選択肢をできるだけ多く (局面を複雑化) -> 相手は迷いやすく、ミスが生じやすい。

本当の強さとは: 粘り強さと攻める大胆さ

過去のデーターに頼りすぎる若手のプロは、カーナビが使える場所は時速100km でもすいすい走っていけるが、カーナビが使えない山道に入ってしまうと、最善手をさせなくなってしまう。強さの土台とは何か? 若手の中にもねばり強い人がいる。難解な局面をていねいに指し、相手のミスで逆転勝ちし、それなりの勝率を残す。下位に取りこぼしがない一方、致命的ミスを犯さない上位には勝てない。
その高いハードルを越えるには、自分から攻める大胆さ、たくましさが必要。自分の首を差し出すくらいの気持ち、相手を威圧しミスを誘い出す気迫が、トップレベルの世界では必要。

現状に満足すると勝てなくなる: 陰陽転化の法則

毎週のように優勝していた全盛時代に、愛用していたクラブを代えたプロゴルファー尾崎将司さん。勢いに乗って勝ち進みだした頃、序盤から常識では考えられない手を繰り出してきた羽生義治さん。好調で、勢いもあり、序盤は常識的に指してもそこそこ勝てたはずなのに、いろいろな可能性を模索し、実戦で試す姿勢。
これまでのスタイルが通用しなくなったり、勝てなくなってはじめて新しいことを求めるのが通常だが、それでは時遅し。不調時は、迷ったり、妥協したりしてマイナス思考になる一方、好調時はやる気もあり、プラス思考でいられる。「創る喜びを得るには、壊す勇気が必要」で、調子の良い時こそ、自分の殻を破り、新しい試みにチャレンジする勇気が必要。

トップになるためには: 勝負師・研究者・芸術家の3面

どんなことがあっても勝てる、チャンスを見逃さない勝負師としての顔。情報を収集し、的確に分析する研究者の顔。そして、常識にとらわれず、自由な発想でイメージする芸術家としての顔。この3つの顔をバランスよく持つことが大切。

大局観とは: 平等に漂える注意力

  • 古田敦也 名捕手いわく、「敵との駆け引きに没頭していると、味方がみえないことがある。例えばダブルプレイを狙って注文どおり内野ゴロに打ち取ったはずが、打球の方向を追うとそこには内野手がいなかった。キャッチャーは、常にグランド全体を見渡し、チーム全員の動きに気を配りながらプレーする必要がある。」
  • 臨床心理学者の河合隼雄文化庁長官いわく、「心理療法の現場で、患者はアルコール依存症と告げられたカウンセラーは、それが核心だと決めつけてしまい視野が限定的になるが、一流のカウンセラーは全てに平等の注意を払いながら『ぼーっと聴く』。大事なのは、何か一つの方向に収斂していくような集中の仕方ではなく、方向性を全て捨てた集中力。フロイトいわく、『平等に漂える注意力』。