経営の本質III

3) 変化する勇気・リスク管理に裏打ちされた勇気

  • 「最後まで生き残る生物は、最も強い生物や最も賢い生物でもなく、変化し続ける生物だけ。これは企業でも当てはまる。」 トヨタ 渡辺社長 (一人勝ちトヨタを襲った08年の未曾有の危機)
  • 「失敗とは成功に至る第一歩で、成功へ導くプロセス。失敗は人を鍛える。失敗は必ず起こる。だとしたら、成功に近いのは、失敗しない人ではなく、失敗に強い人。」 ユニ・チャーム会長 高原
リスク管理に裏打ちされた勇気について、
  • 「悲観的に考えて、楽観的に対処。最悪の事態をとことん考え、それに耐えるあらゆる手だても考え、それしかなければ着手。そしてスタートしたらくよくよしない。」 ヒロセ電機会長 酒井秀樹
  • 「大きな勝負のできる人は大胆ではなく、むしろ慎重であることが多い。大事を成すのは実は臆病な人。勇気と臆病は対立する概念だと考えられているが、そんな単純なものではない。事業をやるためには、両方を持たなくてはならない。」 ユニ・チャーム会長 高原慶一郎
  • 「失敗したことがないという人を、私は信用しない。それに、失敗して転んだ時の受身を知らないと、いざというときに致命傷を負ってしまう。」 ファーストリテイリング会長 柳井正
  • 「努力して先が読めるようになれば、成功は間違いなしというより、むしろ努力すれば大きな失敗は免れる、連敗は防げるということを信じたい。努力には失敗に備える保険のような側面がある。」森祇晶 元西武監督
  • 「多少の失敗なしにイノベーションは生み出せない。変革のための失敗を許容し、促す組織を創るべき。You need the ability to fail.」 エマーソン会長 チャールズ ナイト

So what

客観視・否定・変革

私が主要テーマとして扱った失敗学。その根源は、「自己を客観視->自己否定->自己変革」できなかったことにある。他人から学び、失敗は改めようという謙虚な心。一連のスタートが自己を得る「自得」、その重要性を説いた安岡正篤 先生いわく、「人間はまず自己を得なければいけない。人間はいろいろなものを失うが、一番失いやすいのは自己。まず自ら自己を徹見し把握せよ。」
あるいは言志四録の著者 佐藤一斎いわく、「人に接するときは暖かい春の心、仕事をするときは燃える夏の心、考えるときは澄んだ秋の心、自分に向かうときは厳しい冬の心」

私が思うに松下幸之助のじいちゃんの最大の間違いは、神様になったが故に聖域ができ、後継者が否定し変革することが妨げられたこと。経営者は、経営理念を基に、ビジョン-> 会社戦略-> 事業戦略 へと具体化策を落とし込むが、経営理念はより長期的で普遍的な一方、ビジョン以下は経営者が変われば手直ししてもいいもの。経営理念の中に、自己否定・変革・進化する精神を盛り込むべきだった。環境変化のスピードが激しい現在の環境下では、「昨日の適任者」が「今日の適任者」とは限らない。

楽観論

勇気の根底にある楽観論。松下幸之助のじいちゃんでも、「90%はうまくいかない」といっているくらいで、要は気の持ち方次第。究極的には、いかなる艱難辛苦にあっても自分を成長させる機会だ、これを乗り越える機会をわざわざ天が与えてくれたのだと、超ポジティブにとらえ、さらに「楽しむ」という仙人の境地に達することができれば、多少のことでは動じない胆力が備わる。私の精神安定剤は、

  • 「天を楽しみ、命を知る。故に憂えず」-易経
  • 「死生命有り、富貴天に在り」- 論語

人間というのは、常に心配事が多い生き物である。あらゆる努力をした後は(後悔しないような行動をとったなら)、どんな結果であれ、それを天命(宿命*)と思って全てを受け入れなさい。「天がこうした方がいいと示してくれたのだ」と勝手に思い込むことでポジティブになれる。(宿命*: 命に宿るという意味で自分ではコントロールできない⇔運命: 命を運ぶという意味でコントロール可能)

度量

京都大学Stanford 大学に相当する中国の名門、清華大学の碑の裏に刻まれ、学校の精神ともなっている言葉「自強不息、厚徳載物」。友人の書道家に書いてもらい勉強部屋に飾って毎晩眺め、日々反省している私の好きな片言隻句。

  • 「天行健なり。君子は以って自強してやまず」-お天道さんが一日も休みなく働いているのと同じように、君子は努力を怠ってはならない。
  • 「地勢坤なり、君子は以って厚徳載物」-大地があらゆる生きとし生けるもの受け入れ、はぐくみ育てているのと同じように、君子は大きな心を持って、徳を高くし、度量を大きくしていかないといけない

4) コミュニケーション

ネアンデルタール人が滅び、ホモ・サピエンス(クロマニヨン人)が生き残った主要因が、言語を操る能力差。自らの知識と経験を他者と共有することができるようになり、生涯をかけて獲得した知識も子孫へ伝えることが可能になった。
グロービズの堀学長に、リーダーシップで最も難しいのは何かと直接聞いたところ、答えは「コミュニケーション」で、克服法は場数を踏むしかないとのこと。コミュニケーションは、相手に伝えるだけでなく、共有されなければ無意味。英語では下記のような例えがあり、受け手が納得して行動しようと思ってもらえるレベルに到達して初めて意思が共有される。つまり、主語は送り手ではなく「受け手」で、彼らがいかに受け止めるか。

  • Said ≠ Heard
  • Heard ≠ Listened
  • Listened ≠ Understood
  • Understood ≠ Agreed
  • Agreed ≠ Convinced

そして、もう一つの難解な点が会話の行間に含まれる感情的次元の会話、言外の解釈の相違。例えば、コンサルタントが顧客に改善を求めアドバイスをする場合、同じ言葉でも受け手からすれば、「私はあなたが嫌いだ。間違ったことをしたあなたに賛同できない」という場合と、「私はあなたが好きだ。あなたに成功して欲しいから、改善点を提言している」という場合。受け手の捉え方次第で、正反対の意味に解釈される可能性がある。感情的メッセージは誤解を生みやすいので、発信者はストレートに「成功して欲しいから・・・」と伝える一方、受け手がメッセージをどう受け取ったか、同席者に聞いたり、直接受け手に確認してみるのがいい。