レバレッジとは

1年前にまとめたサブプライム問題の本質。結構好評だったこの分析、簡単に言うと、

変動金利型のサブプライムローンが、証券化という手法によって健全な証券の一部に進入しその存在を希釈化させ、グローバル化によって世界に拡散、レバレッジによって破壊力を数倍に増強させた状況下において、06年以降の住宅価格の下落により焦げ付きが増え、その後の急激な金利上昇(サブプライムローン証券化した商品の価格が急落)によって起爆装置があちこちで作動、世界規模で爆発が続いている状態。

数式で表すと、サブプライム問題 =証券化 X グローバル化 X レバレッジ。今回は、レバレッジについて、ちょこっと考察。

銀行 vs. 投資銀行

経営破たん・危機に陥った投資銀行、それを苦しいながらも救済できる(商業)銀行。その余力の違いがどこにあるのか、株主から見た収益性 ROEという指標で比較。

ROE (最終利益/自己資本) = Net margin (最終利益/売上) X Asset turnover (売上/総資産) X Financial leverage (総資産/自己資本) に分解して、業界トップの推移を比較したのが下表。保険トップAIGも添付したものの、航空機リースなど本業以外の影響が大きいため参考程度に。

04年以降、投資銀行GSが商業銀行JPMの倍以上のROEを計上しているが、その主な要因はレバレッジ。次に投資銀行4行 (GS, MS, MER, LEH) と商業銀行3行(JPM, C, BOA) のレバレッジの推移を見ても、投資銀行が2倍ほど高い。その訳は、ビジネスモデルの違い、金融自由化、持ち逃げ意識。


レバレッジ3大要因

  • ビジネスモデル (ストック vs. フロー): 預金者から低率で資金を調達(預金してもらって)、融資先から毎期比較的安定した利子収入を得られる商業銀行の「ストックのビジネス」に対し、前期からの繰越がなく毎期ゼロから始まり、期間中の取引高に反映した手数料収入に依存した投資銀行の「フローのビジネス」
  • 金融自由化: 1999年グラス・スティーガル法が廃止され、商業銀行と投資銀行が同じ土俵で競争しなければならなくなった時、資金調達面で不利な投資銀行は、株式公開->大幅増資->バランスシート拡大->資産規模の勝負へ
  • 持ち逃げ意識: フローのビジネス環境だと、給与体系として「今日の利益はオレもの、明日の損は君のもの」 (いま無理やりにでも利益を出せれば、高いボーナスをもらって、やばくなる前に辞めてしまえばいい)意識が働きやすい= 「コールオプション」体系

証券と銀行の垣根がなくなったことで競争が激化、顧客の知識レベルも向上したことで、本業である「資金調達側(企業)」と「資金提供側(投資家)」をつなぐ債権や株式のプライマリー業務で、次第に大きな利益を上げることが難しくなった投資銀行。持ち逃げ意識に04年以降のイケイケドンドンの追い風が吹くと、報酬体系はリスクが高いほど価値が上がる「コールオプション」形へ。実際、資本の30倍くらいを借入れ、資本の従業員持ち分もわずかであることを考慮すると、ほとんど「他人のお金」で勝負できる。さらに、金融が緩和され、過剰流動性が加わり拍車がかかったところに、バブルの本源「欲望」という闇の世界に迷い込んだという構図。

GS とリーマンの違い

では、なぜGSはなんとか生き残り、リーマンは自滅したのか。以前にも書いたが、トップクラスの投資銀行は、様々な分野で一流のプロを雇っているので撤退するのも早く、儲けられる時にはガッポリ儲けているので、持久力もある。一方、トップクラスでない金融機関は二流専門家を雇っていて、購入商品も質の悪いものが多く、撤退も遅くなる傾向があり、今回のようなケースでは大損し、持久力もないため、倒産・買収されるケースが多い。投資銀行は、市場から比較的短期の資金を大量に調達しているので、業績が悪化した場合や市場からの信用が低下した場合、直ぐに資金コストが上昇し、資金調達自体が難しくなる。

詳細は確認していないが、先ほどのレバレッジの推移を見ても、04-05年にレバレッジをかけて仕込み、05-06年にかけてはレバレッジを抑えて収穫したであろうGSに対し、他社に負けじと05-06年から遅れてレバレッジを大幅にきかせたメリル、リーマン、シティバンク。質の悪い商品を買っても、売り抜けられれば問題ないが、timing is everything の投資の世界で、タイミングを逸したリーマン。日本の銀行界でも、タイミングに秀でていたのは他行から一目おかれていた住友銀行