日米比較
今や余剰資金の面で逆転した感のある日米の大手金融機関。商業銀行 (JPモルガン・チェース vs. 東京三菱UFJ) と投資銀行 (Goldman Sachs vs. 野村證券) についてROEを比較したのが下表。いずれも多業種に進出しているので、正確な比較は困難だが、際立つのが以前から指摘されているROEの低さ。主な理由を挙げると、
- 運用が国債などの低リスク商品に偏っている
- 手数料収入の割合が小さい
- 給与水準に見合わない中堅幹部が多い
- 銀行・証券・保険の垣根がアメリカより高い
- 未だプラス思考の再編が進まず、銀行・証券業者の数が多すぎで利幅が少ない
- 証券化の専門知識で欧米に劣り、資産を有効活用していない (低いAsset turnover)
- 東京三菱UFJのレバレッジは高めだが、バブルの後遺症で自己資本が不足気味なだけ
企業文化の違い: コールオプション vs. プットオプション
収益性の背景には、報酬体系・人事評価システム=企業文化の違いがある。労働市場の流動性が高く、成功報酬型の環境下では、「今日の利益はオレもの、明日の損は君のもの」が働きやすいコールオプション型の欧米金融機関。一方、依然として大企業特有の官僚的減点主義が残り、求人市場の流動性も低い日本。信頼が重視される銀行業では、よりプットオプション型になりがち。もちろん、80年代後半のバブル期は日本でも一時、コールオプション型に移行したが、総じてプットオプション型。今回のサブプライム問題では、リスク管理が働きやすいプットオプション型を採用していた金融機関の損失が割合少なくてすんだ、それが商業銀行であり、日本であったということ。
日本でも投資銀行に似たモデルをとっていたのが、経営破たんのニュースが絶えない不動産業界。構図としては
サブプライム問題が表面化-> 欧米の金融機関が損失を補填するため、評価益のある日本の土地を売却->今年3月にかけては資産売却を加速、欧米金融機関の大量土地放出により投売り状態-> 買い手不在の不動産価格は暴落-> 担保価値が急落し、サブプライム問題の拡大に怯える銀行が今年の春頃から突然、融資を打ち切り、貸しはがしにまで発展-> 主に銀行からの借り入れ資金で大幅なレバレッジをきかせてイケイケドンドンだった不動産ほど、資金繰りが急速に悪化-> たとえ単独では何とか持ちこたえられても、子会社が次々と倒れられてはその重みに耐えられず、連鎖倒産
好景気下でレバレッジ+コールオプション型モデルで階段を駆け上がってきた企業も、サブプライムという逆風で一気に地下まで吹き飛ばされたということ。
老舗の資本を吹き飛ばした威力とは
しかし、このようなサイクルはこれまで何度もあったはずなのに、100年以上の荒波を乗り越え蓄積してきた老舗投資銀行の資本をあっという間に吹き飛ばした威力は何だったのか。その本源が、コールオプション型のリスク管理体制ではないかと。
1999年にグラス・スティーガル法が廃止され上場への道を歩むまで、概ね欧米の投資銀行は、ジェネラルパートナーが無限責任を負うパートナーシップの会社だった。つぶれれば負債はパートナー個人にまで及ぶので、自らリスク管理が機能する体制だったが、上場によってほぼ他人のお金で勝負できるようになると、レバレッジをきかせやすい体制に移行。そこに証券化 x グローバル化の新風が吹いたことで、無限にリスクを取りにいく本能に火がついて、「欲望」のおもむくままブレーキのきかない暴走列車は、バブル崩壊という名の終着駅までつき進んだということ。