「仮説→実行→検証」とは I

HBS の友人から新たな視点を得た論理的思考。創業者がHBS出身でもある楽天株式会社の主要コンセプトにもなっている「仮説→実行→検証→(仕組化)」について、その本質にせまった。

楽天グループの目標

  • 世界一のインターネット・サービス企業

楽天グループにおける5つのコンセプト

  1. 常に改善、常に前進
  2. Professionalismの徹底
  3. 仮説→実行→検証→仕組化
  4. 顧客満足の最大化
  5. スピード!!スピード!!スピード!!

論理展開の基本的パターン

1) Deduction:演繹

三段論法ともいわれ、ルール・一般論と観察事項を関連づけて、結論を必然的に導き出す思考法。
結論 <----(ルール・一般論)----観察事項

2) Induction:帰納

観察されるいくつかの共通点に注目し、ルールまたは無理なくいえそうな結論を導き出す思考法。高校の数列で習った証明法、n=1, n=2, n=3 のとき成り立つよね、n=kで成り立つと仮定し、n=k+1でも成り立つことを示せたら、全ての自然数nで成り立つはず。なぜなら、n=1 が成り立っているので n=2 が成り立つ、n=2 が成り立っているので n=3 が成り立つ・・・ドミノ倒し形式で全ての自然数で命題が成り立つはずというロジック。
三段論法で必然的に結論が出る演繹法と異なり、有意な結論を出すにはある程度の知識や想像力が必要で、導き出される結論が一つとは限らない。下の例に当てはめると、軽自動車、ユニクロ、300円台ランチの共通点は、低価格。
または古畑任三郎が、「犯人はあなたです。第一に・・・、第二にあなたには動機がある・・・・。第三にアリバイになった方、何ていいましたかね・・・そうそう・・・」と、犯人と断定した理由をいくつか挙げて追い詰める手法も帰納法演繹法とは異なり、「それは全てあなたの想像でしょ、根拠はあるんですか」と切り返されるのが難点。
結論=ルール・一般論<---- 観察事項1+観察事項2+観察事項3

  • 観察事項1: 軽自動車や中古車の売れ行きが好調
  • 観察事項2: 低迷する衣料業界の中でも、ユニクロは大幅な増収増益
  • 観察事項3: 300円台ランチが大人気
  • 結論=ルール・一般論: 今の消費者嗜好は低価格商品

実践-演繹法帰納法の組合せ: 「仮説→実行→検証」

1) 翼と羽毛理論

飛べる動物と飛べない動物を比較。そこから翼と羽毛があれば飛べるかもという「仮説」を導き出し、人に翼をつけて崖から飛んで「実行」したところ、「検証」結果は複雑骨折。羽ばたき方が足りない? 筋トレ? もっと大きな翼? など色々試すが、実験者はそのたびに病院行き。
いまハマっている思考パターンから抜け出しもう少し次元をあげて、翼と羽毛以外に何が必要か再考。「ダチョウは翼と羽毛を持っているけど飛べない、コウモリは羽毛がないけど飛べる、ムササビは翼も羽毛もないけど飛べる」、ということを異常値「Anomaly」として無視。「ムレなくダブリなく」Anomalyをもっと突き詰めていたら、理論の弱点を克服できたはず。

2) ビジネス界への適応:

Inductiveに導き出した先ほどのルール・一般論、今の消費者は低価格商品を好むだろうという「仮説」 を基に、低価格な冷蔵庫を他社に先駆けて開発 (実行) し、それが売れるかどうか Deductiveに検証。しかし、売れない。さらに値下げしてもダメ。ここでも、観察事項を見直すほか、Price以外に無視したProduct, Place, Promotionなど別の要素 (Anomaly) について再考し、結果と整合性がとれるまで仮説を何度も修正。この「Inductive=>Deductive=>Anomaly」という一連の流れができているかどうかで、理論のPyramidが完結しているか検証。

  • ルール・一般論: 今の消費者嗜好は低価格商品
  • 観察事項: わが社が他者に先駆けて開発した冷蔵庫は低価格
  • 結論: わが社の冷蔵庫は売れるだろう

中でも重要なのが、Inductiveに導き出される仮説。これは、右脳から生まれたひらめきやインスピレーションを、左脳の論理的なフレームワークに落とし込むこと。つまり、仮説は右脳と左脳のキャッチボールから生まれる。仮にうまくいかなくても、その失敗は一つの重要な経験値となり、社内で共有・活用「仕組化」されれば、一連の流れの精度が高まる。ビジネス現場では観察事項が刻々と変わるため、これらの流れを継続的に仕組化する必要があるため、楽天では04年に「仕組化」を追加。