ネットの普及がもたらす価値観の変化

ムダを排除して付加価値を創出

「原材料に付加価値をつけていくプロセスだけを抽出し、それ以外は排除する」というリーン生産方式。「贅肉がとれた」を意味するLean(リーン)を用いて命名されたが、トヨタ生産方式の発明者 大野耐一氏の言葉を借りれば、「顧客の注文を受けてから現金を手にするまでの時間の流れを見て、付加価値を生まないムダを取り除くことで、その時間の流れを短縮する」

作業工程を改善する場合、付加価値を生みだす生産設備をいじくりがちだが、付加価値を生む行程の割合は通常、非常に小さいので、その部分を改善しても大した効果はでない。付加価値を生まないムダを排除するという、もっと大きな改善チャンスに多くの人は気づかない。50歳を超えたチンギス・ハンが20代の若者に一目ぼれし、宰相として迎えた耶律楚材(ヤリツソザイ)は、次のような名言を残した。

  • 一利を興すは一害を除くにしかず、一事を生かすは一事を減らすにしかず」-耶律楚材
  • 一つの良いこと新しいことをやるよりは、一つの悪いこと不要になったものを取り除いていく方が効果的、という意味。

所有価値から利用価値へ

この「付加価値を生まないムダを排除する」という考えを個人レベルに落とし、利用時間が少ない資産はないか周りを見渡すと、その代表例が車。利用時間が少ない割に、初期投資で数百万、保険・駐車代・ガソリン代などの維持費もかかる。そこで「利用する時間だけお金を払いたい」という顧客向けに登場したサービスが、カーシェアリング。特定地域の複数の人間で車を共同所有し、必要な時だけ車を利用することができる仕組みで、一人あたりのイニシャル+ランニングコストをかなり抑えられる。レンタカーとの違いは、利用者が増えれば増えるほど価値が増すNetwork Externality。物理的な利用権をデジタルで細切れにする流れで、同様のことが企業再生局面において固定費から変動費へのシフトで見られる。その他にも、ネットオークションの急速な普及により、購入時に「いらなくなったら売ればいい」という短期利用を前提にした購買行動も可能になった。

こうした流れの本質は、時間軸という新たなセンサーを持った消費者が財・サービスの本源的価値に目覚めだしたということ。それにより企業側は、「所有価値ではなく利用価値からお金をとるモデル」を迫られるようになるはず。若者の車離れが加速する中、複数の都市でカーシェアリングを展開し、下図のIV 「事業の共食い化」戦略でトヨタに挑むオリックス。リーン生産方式の基礎となったトヨタ生産方式、皮肉にもその生みの親 大野耐一氏が導入した「ムダを排除して付加価値を創出」する考えが消費者に浸透し、トヨタを苦しめる可能性がでてきた。

カーシェアリングをソフト面で支えたのが、インターネットによる柔軟な予約とICカードによる個別認証管理システム。いつでもどこでもだれとでもつながるMobile Internet が普及すれば、通勤時間や待ち合わせ時間のムダを排除することはますます容易になる。オンラインゲームの課金モデルは、月額固定から武器や服などのアイテム課金へシフトしだし、それを可能にする小額決済システム開発も注目を浴びている。利用価値をトコトン追及する革命運動は今後ますます加速、その方向は真の意味での顧客中心主義を指している。