顧客データが生み出す価値
従来モデル: マスメディア+属性ターゲティング
消費者が購買に至るまでの過程を示すAIDA。知らない客に注目してもらい (Attention)、興味を持ってもらい (Interest)、欲しいと思ってもらい (Desire)、買おうと思ってもらう (Action) 一連のプロセス。広告主にとって最も価値のある部分は、Desire-> Action への購買意欲を喚起する所。しかし、従来の媒体ではこの部分へのアプローチが困難だったため、広告主はAttention-> Interest を中心に、企業・製品の認知度を高めることに注力。最適な媒体としてリーチの高いマスメディアを活用し、視聴者・購読者の年齢・性別・職業などの属性を基にターゲット広告を放ち、費用対効果の最適化ポートフォリオを組むのが従来モデル。一方、電通など広告代理店は、業界発展のため曖昧な効果の部分を直接・間接的にサポートし、様々な指標を出して広告の重要性を広告主にアピールし、広告収入が過半をしめる多くのメディアと共存共栄の道を歩んできた。
Google モデル: One to One + 行動ターゲティング
広告主にとって最も価値のある部分、Desire-> Action へのアプローチを可能にしたのが、Google の検索連動型配信システム (AdSense/ AdWords) 。検索連動型だと、あらかじめ興味のある言葉とマッチさせるので、行動に結びつきやすい部分を標的にできる。
ところで、人には大きく分けて二つの人格、プライベートと仕事で使い分ける人格「コミュニティパーソナリティ」と、時間、場所、気持ちなど状況に応じて異なる「シチュエーションパーソナリティ」がある。これらの人格は購買行動と密接に関わっている。例えば、昼食で300円の価格差に頭を悩ます人格と、旅行先ではためらいもなく3,000円追加してワンランク上の部屋を選択する人格。社費ならビジネスクラス、私費旅行ならエコノミーで我慢する人格。同じ商品でも奥さんからおねだりされる場合と、キャバクラのお姉ちゃんからの場合。
従来の属性ターゲティングだと、都内在住、30歳、独身男性、勤務先は金融業界、年収800万円なら、統計データを基にこんなライフスタイルで、こういう商品が欲しいはず、という標準モデルを当てはめた。一方、Googleモデルのように「ある行動をした人に絞り込む」行動ターゲティングだと、「こんな人はこんな行動をするだろう」という曖昧な仮説での置き換えが不要になり、単一パーソナリティからマルチパーソナリティ (コミュニティ&シチュエーションパーソナリティ) へのターゲティングが可能になる。その結果、より正確かつ効果的に購買行動を促せるようになるほか、アプローチも多様化する。
Google の「こちら側」から「あちら側」への情報大移動計画の本質は、「ユーザー数に比例して価値が向上するデータベースの構築」にある。検索やGmailなど様々なサービスを提供し、数年間利用してもらえれば、ユーザー個人の価値観や生活スタイルの大部分を知ることができる。こうして集まった膨大なデータベースは、より効果的な広告発信に活用され、ビジネス展開の選択肢も広がる。ユーザー数を増やす最も効果的な方法が、Web 1.0 の「コンテンツ」囲い込みから、Web 2.0 の「アプリケーション」誘致へシフトしているため、ネット業界ではAPI公開やオープンソース化が流行語となっているが、その本質はいかに巨大な顧客DBを構築し、活用できるかということ。
懸念されるプライバシー問題に対しGoogleは、「広告配信作業は全てコンピューターがして、人は介在させないから大丈夫」と反論。ただ最近では、個人情報の取り扱いにとても慎重なEU諸国からの反発を受けて、クッキーの有効期限を2038年から発行日から2年間に短縮したり、サーバーで保存されるアクセス ログデータを18-24ヶ月後に匿名化するなどの措置を発表した。
Mobile Internet の可能性
PC Internet との違いは、常に身近にあり、24時間オンの状態であること。これにGPSが加われば、人の行動がデジタル化され、とてつもない人間データベースが完成する。検索対象が文書、写真、音楽、動画などのコンテンツから、より利用価値の高い「人」へと変化している中で、Mobile Internet は最も効果的な人間探知機として機能するはず。
具体例として装置型サービスへ適応すると、これまで映画館運営者は、次の上映がガラガラだとしても、ただ指をくわえているしかなかった。しかし、映画館の近くにいる人に、今から1時間だけ有効な半額クーポンを配信すれば、「暇してた人」を「映画でも見るか」に変えられる。Timing is everything の名のとおり、タイミングは購買行動の主要ファクター。PC Internet では不可能なタイミングを捉えたプッシュ型広告配信、この肩をポンと押して購買に結びつけるノウハウに広告主は価値を見出す。
さらにGPSを活用して購買行動の因果関係を明らかにすれば、人間データベースの価値は増大する。どの情報にどのタイミングで接触し、その結果、いつどのお店に行った買ったなどが、連続的に捕捉できるデータベース。こういうことをやろうとしているのが、今回私がお世話になるインターン先。モバイル広告を扱い、国別、キャリア別、端末別に広告配信できる技術を持つ。月に20億あるインプレッション(ページビュー)を基にした人間データベースが強み。
Facebook の可能性: Social Graph
以前紹介した「あなたの友達の魯山人さんが星ヶ岡茶寮という料亭で食事しましたよ」という口コミ伝達システムSNS Social Ads。それは、Google ではなく、Facebookが開発した人と人との相関関係図ソーシャルグラフ (Social Graph) 技術が土台。このプラットフォームが固まれば、今度は顧客同士が情報を交換し、企業側が何もしなくても自然に顧客DB価値が高まる仕組み、つまり勝手にデータを提供してくれる仕組みができあがる。これが複雑系の本質的魔力。
例えば、会員が商品購入履歴を公開しあうことで、店舗ごとの評判や価格を参考できるシステム。Facebook が規定したソーシャルグラフによるアプリケーションプラットフォームが、アプリ開発者にとって魅力的なら、商品購入履歴を公開できるようなアプリケーションや、店舗別の評判や価格を一覧比較できるようなアプリケーションは、彼らが勝手に作ってくれる。今度はそのアプリを使って、顧客同士が勝手に情報をシェアするので、共有知が顧客DBに蓄積される。One stop, One table, One to one の理想的世界。人間関係を土台に、アプリ開発者や顧客など複数の補完者を活用して、ギアを数段あげて成長する仕組み、次世代ウェブアプリケーションプラットフォームを担う最右翼がFacebook。つまり、ネット上にあふれ出した人間関係を整理して付加価値を生み出す時代のチャンピオンになれそうなのがFacebook。