オープンソースのバリューとは?

APIを公開してオープンソース化する巨大潮流。そのバリューは何なのか、バリューを生み出す二つの基軸、顧客のWTP (Willingness to Pay) を押し上げる方向と、提供者側の生産コストを押し下げる方向に分けて本質にせまってみた。

生産コスト押し下げ要因: Learning curve & Economies of scale

GoogleFacebook など世界最高峰の技術者がつくった基盤・ノウハウをタダで使えるのだから、Learning curveの効果は絶大で、下図Bの方向へ大幅にコストを押し下げるほか、初期投資も小額ですむ。ネットでつながれた技術者が共同開発するいわゆるWikipediaのような世界でも、こうしたら使いやすいのでは、こうしたら高速になるのでは、と世界中の電脳が有志でプログラミングするので開発費は数桁違ってくる。さらに、プラットフォーム提供者とアプリ開発者、双方の顧客数が増えるので、Economies of scale が働き、顧客当たりのコストが下図Cの方向へ低下する。

WTP押し上げ要因: Network Externality

たとえば携帯電話など、加入者が1人しかいない場合、加入価値はゼロだが、加入者が2人になれば、互いに通信できるという価値が生まれる。そして加入者が増えれば増えるほど、利便性はいっそう高まり、利用者のWTP (Willingness to Pay) を押しあげる効果。ネットワーク的性質を持ったサービスは普及率が高まれば高まるほど価値が上がるため、さらに利用者を増やそうとする「正のフィードバック (bandwagon effect)」が生まれる。そして普及率がある水準を突破すると、利用者数が一気に跳ね上がり、i-modeブームのような現象を引き起こす。ネットワーク的性質の強いMySpace, Facebook, Mixi などSNSはより顕著で、サービス開始から数年でページビューはトップクラスにランクインしたほど。

顧客はなにもネットユーザーだけでなく、アプリ開発者も含まれる。優れたアプリケーションがユーザーを増加させるという因果関係に立てば、アプリ開発者の意向は絶大で、現在の彼らの評価はおそらくこんな感じ。

  • Windows: ありえない。
  • Google: いや、もうそろそろ飽きたな。
  • Facebook: う〜ん、やみぃ〜(おいしそう)、やってみる価値あるな。
  • iPhone: お〜、可能性感じるよ。

シナジー効果: Economies of Scope

複雑系の理論、「全体は部分の総和より大きい+全体には部分には見られない新しい性質がある」、つまり1+1>2のことで、こちらも規模が大きいほどシナジー効果は大きくなる。そして、「ユーザー数に比例して増加するデータベース価値」、実はこの知の集合体を自社サービスにうまく活用することが、Web 2.0 の大きな可能性の一つ。詳細は後ほど。

Facebook における実例

ちょっと怪しいがFacebookの開発者コミュニティーの自己報告によると、「1人の起業家がFacebookのアプリケーションを開発するために要する平均的な開発期間は2-15週間。Facebookアプリケーション開発者の1/3が月に50万ドル以上の利益をあげ、Facebookで起動するアプリケーションの少なくとも1/4は、10万人のアクティブユーザーがいる」
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20373559,00.htm

集客力: 自力 vs. 補完者

90年代は「Content is King」 という経験則がうまく機能し、自前で様々なコンテンツをかき集め、プラットフォーム戦線に勝利したYahoo! だったが、現在のウェブ世界チャンピオンはコンテンツを何一つ持たないGoogle。その答えが、自前主義か補完者の力を借りるかの違い。”自力”で「コンテンツ」を囲い込む閉鎖的・小脳競争か、”補完者”の衆知を集め戦場をより大きな「プラットフォーム」に求める開放的・大脳競争かの違い。

上記の生産コスト、WTPシナジー要因は、全て人数・規模の関数 (バリュー=規模×something) なので、バリューをあげる最大のドライバーはユーザー数を増やすこと。それゆえ、ウェブサービスの世界は、最終的に勝者はただ一社、winner takes all の原則が働く。集客力の源泉が、Web 1.0 の「コンテンツ」囲い込みから、Web 2.0 の「アプリケーション」誘致へシフト、その流れに乗り主導しているのがGoogleFacebook

オープン化の罠: IBM地盤沈下

81年に巨大メインコンピューターから小型PCへ参入した巨人IBM、PC業界リーダーのApple (Mac) に早く追いつき追い越すことを最優先に掲げたため、MPU (CPU) はIntel、OSはMicrosoftに開発を依頼。加えて内部仕様の多くを公開し、プログラマーを支援して、IBM用ソフトを大量に流通させた結果、PC/AT互換機 (Personal Computer/Advanced Technology) は、事実上の世界標準となり大成功を収めた。だが皮肉にも世界標準となることで魅力的になったIBMプラットフォームに、HP, Compaq, Dell などのPCメーカーが参入し、IBMに見劣りしないパソコンを安価で売り出し始めた。当初、唯一のパソコン供給者だったIBMの価値は急速に低下する一方、PCメーカーにとってほぼ唯一の存在であったIntelMicrosoft の相対価値は高まり、Wintel帝国を築きPC業界を支配。

IBMにとっての教訓は、IntelMicrosoftを参加させた見返りに、最低でも両社の株式くらいは要求すべきだったこと。そうすれば、MPUとOSを自らの支配下において、他のPCメーカー参入後も、強い立場を維持できたはず。