「アプリケーション」プラットフォームの時代へ

今回は、ウェブサービスを説明する上で欠かせない4要素、「インフラ」、「プラットフォーム」、「アプリケーション」、「コンテンツ」、を使って歴史的経緯を追った縦比較、他の産業との横比較、今後の展開を中心に日本への波及という観点からクロスボーダー比較を行った。

都心ビルの集客競争

丸の内ビル、東京ミッドタウン汐留シオサイトなどの集客競争に当てはめると、プラットフォームが丸の内や六本木などの立地、インフラはそこへたどり着く行程やアクセスのしやすさ、コンテンツは有名ブランドや地方の行列店などのテナント、アプリケーションはコンテンツ販売を促進するサポーター。理想的には、行列に並ばなくても空いたら受付順に携帯に知らせてくれるシステム。他のサービス業界でいえば、セブンイレブンの強みであるPOSシステムを使った在庫管理、回転寿司の画面注文システムなど。

都心ビルの集客競争の場合、インフラやアプリケーションに差はないので、メディアは「東京に新たな観光スポット、東京ミッドタウン。丸の内ビルをしのぐ・・・」など、丸の内 vs. 六本木の構図、プラットフォームの戦いとして報道したがるが、プラットフォームにも大差はないので、実質はキラーコンテンツ獲得・創出合戦=顧客の囲い込み合戦。

  • コンテンツ: テナント-> 有名ブランド、地方の行列店、テレビ局、アニメ世界、アトラクション
  • アプリケーション: 効率的な販売手法-> 行列緩和、サプライチェーン管理システム
  • プラットフォーム: 立地-> 丸の内、六本木、汐留
  • インフラ: 移動・行程-> 路線網、移動時間・スピード、混雑状況、道幅、快適さ

Content is King

次世代規格=有利な立地を競うプラットフォームの戦いでは、都心ビルの集客競争と同じようにコンテンツが勝敗のカギを握る。例えばVHS vs. ベータ戦争では、録画時間の差をテコにレンタルビデオ市場を押さえたVHS。以前紹介した次世代DVD競争では、ハリウッド映画の囲い込み合戦が長期化したが、敵の主力ワーナーの寝返りにより勝利したBlu-ray陣営。ゲーム機では、プレイステーションの人気を決定づけた「ファイナルファンタジーVII」、ニンテンドーDSでは「脳を鍛える大人のDSトレーニング」。マーケティングの4P に当てはめても、差別化しやすい「コンテンツ」が王様。

  • Product: コンテンツ
  • Place: プラットフォーム+インフラ
  • Promotion: 「インフラ」、「プラットフォーム」、「アプリケーション」、「コンテンツ」の複合効果
  • Price: 「インフラ」、「プラットフォーム」、「アプリケーション」、「コンテンツ」の複合価値

ウェブサービス: Yahoo! から Google

コンテンツ、アプリケーション、プラットフォームを提供者の数で見ると、コンテンツ>アプリケーション>プラットフォームなので、一番おいしいポジションはどんな分野においてもプラットフォーム提供者。ウェブサービスでもインターネットへの入り口 ポータルという一等地をめぐり熾烈な戦いが繰り広げられたが、プラットフォーム戦線を制したのはYahoo!。 現在も王者に君臨する Yahoo Japan に当てはめると、オークションやYahoo!メールがアプリケーション。ニュース、天気、ファイナンス、動画などがコンテンツ。それらを上に乗せたプラットフォームは全ウェブユーザーの8割近くが訪れる超人気スポットとして君臨。90年代は「Content is King」 という経験則がうまく機能し、自前で様々なコンテンツをかき集め、プラットフォーム戦線に勝利したYahoo! だったが、現在のウェブ世界チャンピオンはコンテンツを何一つ持たないGoogle。なぜなんだ?

過去10年間、ウェブはどちらかというとウェブプラットフォームとウェブコンテンツを巡る「コンテンツ」プラットフォームの戦いだったが、ここ数年で潮目が変化。ウェブの主戦場は「アプリケーション」プラットフォームに移りつつあり、08年が劇的に変わりそうな節目の予感。分かりやすい例が、次に説明するMicrosoft vs. Google

Microsoft の焦り: 「こちら側」から「あちら側」/ 「インストール型」アプリから「ウェブ」アプリへ

OSという「プラットフォーム」と、Word/Excel/PowerPointなどの「アプリケーション」を支配し、PCソフトウェアの王者に君臨するMicrosoft。97年にインターネットが爆発的に普及し始めた時、最初に危機感を持ったのがYahoo! でもAmazonでもなく、ブラウザという「アプリケーション」を持っていたNetscapeビル・ゲイツをして「全ての経営資源をインターネットに集中」と言わしめたが、その背景にはブラウザというソフトウェア「アプリケーション」を抑えれば、ウェブもまた支配下におけるとの考えがあったはず。その後、あらゆる手を使ってNetscape を駆逐し、王者Yahoo! に対してもポータルMSNで対抗。

しかし、ウェブを支配したのは相手の強みを弱みに変える柔道戦略を展開し、ゲームのルールを変えたGoogle。同様の戦略は、販売チャネルがない弱みを直販という強みに変え、下図Iのようにライバルができないことをして「企業資産の負債化」戦略を推し進めたDellでもみられた。つまり、Microsoftの強み、手元のPC側「こちら側」では動かず、ウェブ側「あちら側」で動く現在最強の「ウェブアプリケーション検索エンジンを導入。検索連動型の広告配信システム (AdSense/ AdWords) と連携させることで、最強のビジネスモデルとしても機能している。

検索エンジンに次ぐ強力な「ウェブアプリケーションGoogle MapとGmailは、これまでのインストール型アプリケーションを駆逐し、「さよならOutlook」 現象を巻き起こしている。そして次の標的はWord/Excel/PowerPointなどのMS Office。「あちら側」には、互換性のあるMS Officeモドキが無料で提供され、作成ファイルは「こちら側」のPCに保存する必要がなく、「あちら側」に保存すれば、家や会社以外、海外からもアクセスできる。さらに「あちら側」では迷惑メール除去やウイルス駆除も世界最高峰の技術でカバーしてくれるので、「こちら側」で頻繁に行っていたファイル更新の手間も省ける。そして何より、バージョンアップ毎に殆ど使わない機能をふんだんに組み込んだ重いファイルを意図的に作り出し、パソコンの起動速度を低下させ、買い替えを促す策略ともおさらばできる。

最近、Microsoftがしゃかりきになっているのは、Googleによる「こちら側」から「あちら側」への情報大移動計画により、「インストール型」アプリから「ウェブ」アプリへの流れが加速し、最終的に「さよなら Microsoft」現象が起きかねない事態にあるため。

主戦場の変化: 「コンテンツ」から「アプリケーション」プラットフォームへ

過去十数年、ウェブ上のコンテンツ(情報)流通者として名を馳せていたネット御三家、Yahoo!AmazoneBay。その中で、大きく進化したのが以前紹介したAmazon。誰もがAmazon島の資源を使ってお金もうけできるよう、自らの頭脳部「商品データ」の全てをわかりやすく公開(APIを公開)。それによりAmazonは、何もせず勝手に島の売れ筋商品をわかりやすく表示してくれる強力な営業マンを多数確保。”自力”で「コンテンツ」を囲い込む閉鎖的・小脳競争から、”補完者”の衆知を集め戦場をより大きな「プラットフォーム」に求めた開放的・大脳競争へ移行。その結果、AmazonはWeb 1.0 の「ネット小売」から、Web 2.0 の「e-commerceプラットフォーム」企業へと飛躍。

Amazonの進化を受けて、現在はAPIを公開して自分たちのプラットフォームに創造性のある「アプリケーション」をどれだけ作ってもらえるか、「アプリケーション」誘致競争に移行。現在のウェブ世界チャンピオンGoogleの基本戦略も同じで、当分基盤が揺るぎそうにないが、最近急激に力をつけてきた期待の新星がFacebookAppleiPhone。次世代ウェブアプリケーションプラットフォームとの呼び声高いFacebookは、既に20万人のアプリ開発者と2万を超えるアプリケーションを抱え、毎日100以上のアプリが追加されている。一方、PCからMobile Internetへの流れを追い風に、Mobile Internetプラットフォームを目指すiPhone SDKは、累計ダウンロード数が20万件以上、「フォーチュン500企業の1/3」が新iPhoneの企業向け機能に関心を示しているほど。