東芝の敗因II

容量の意義

過去の戦いの教訓として、「似たような時期に似たような商品が出た場合、容量の大きいほうが最終的には勝つ」という法則。それが今回も当てはまった。


ビデオデッキ: VHS vs. ベータ戦争
VHSの勝因として、ファミリーメーカー数が多かった、レンタル市場で主流になったなど様々あげられるが、本質は「録画時間の差」。ベータは放送局におけるVTR使用の実態から、家庭での録画は1時間もあれば十分とした一方、VHSは映画やサッカーの試合を1本に収録するには2時間必要と判断。3倍速の技術が開発されると、ベータは3時間、VHSは6時間と相対差がさらに拡大。


初期DVD: SD vs. MMCD戦争
3GBのMMCD(ソニー・フィリップス案)に対し、5GBのSD(東芝・松下案)が勝利。


次世代DVD: BD vs. HD-DVD戦争
BDは1層25GB/ 2層50GBに対し、HD-DVDは1層15GB/ 2層30GB。物理容量では負け戦だとわかっていながら、それでも東芝が開発を進めたのは、圧縮技術が進むという見通しがあったから。つまり、物理容量が少なくても高圧縮できれば比較的きれいな画像のまま長時間撮れる可能性にかけた。しかし、容量増加には、経験則「容量が5-6倍増えなければ、新しい世界を樹立できない」がある。例えば、700MBのCDに対しDVDはその約7倍の4700MB (4.7GB)。そのぐらい容量が増えないと次の世代に行けないとなると、次世代DVDは単層で25-30GB必要。加えて、インターネット、CSデジタル放送、ビデオ・オン・デマンドなど、情報があふれ出す次世代では、容量の差は主要な差別化要因。


東芝はなぜ小容量で突っ走ったのか?
初期DVD戦に勝利しDVDフォーマットを握っていた東芝は、BDの進歩に目をそむけ、既存路線の延長線上に新フォーマットを描いた結果、小容量化につながった。つまり既存のDVD世界に固執し、その中にハイビジョンメディアを描くエボリューショナル戦略、革新ではなく進化戦略をとった。過去を振り返ると、CDを担ったソニーはDVDで敗れたが、フィリップスのデジタルコンパクトカセットをMDで打ち負かした。そうした技術革新が旧来技術を打破するケースは多い。今回の規格戦争も、既存技術を進化させた新フォーマットと、革新的技術を擁立した新フォーマットが戦い、エボリューショナルな新フォーマットがレボリューショナルな新フォーマットに負けた典型例。初期DVD規格戦争で革新者だった東芝が、今回は既存路線に縛られ革新の域に達せず敗れた。

$99という価格設定

BD陣営が毎月の販売ソフト数で2:1と有利だったことを受けて、東芝が07年クリスマス商戦に決死の覚悟で投入した$99のHD-DVD本体。$99という価格設定により、2人の補完的生産者の重要性がうきぼりとなった。まずソフトメーカー。HD-DVDのシェアは上がったが、$99で買うユーザーは$35もするHD-DVDソフトを買わず、ハードの台数は増やせてもソフトに反映せず惨敗。次にHD-DVDメーカー。販売価格$99ではうまみがないので、東芝以外だれも参入できず、最後の希望だった中国メーカーの米国市場参入も見送られた。一方BD陣営は、安価な機器開発で定評がある船井電機をくどき、BDプレーヤーの価格を引き下げ、裾野を拡大。