企業経営-教訓III

経営者への教訓

経営者本人
  • 客観視→自己否定→自己変革: 他人から学び、失敗は改めようという謙虚な心
  • 失敗を認められない、知らないとは言えない、批判を受け止められない「精神的弱さ」の克服
企業文化の構築
  • 大勢に対し異論を受け入れ・促し、失敗から学び、共有する仕組み
  • 業務上のグレーゾンに対し、判断基準となる規範の構築・浸透

全知全能な人などいないのだから、CEOだけに未来を予測させるより、組織全体が将来を作り出すよう築かれ、要求され、力を与えられているほうが、うまくやっていけるはず。「下君は己の能を尽くし、中君は人の力を尽くし、上君は人の智を尽くす」-韓非子: 『三流のリーダーは自分の能力を使い、二流のリーダーは他人の力を使い、一流のリーダーは他人の能力を使う』、それを実践したのは、体が弱く人に動いてもらわざるをえなかった松下幸之助のじいちゃん。衆知を集める名手の経営手腕に「経営の神様」という称号が贈られたが、その本質は戦後初の減収減益という過去最大の危機にさらされていた松下電器を救った「熱海会議」でのフィナーレにある気がする。黒田長政候、米空軍の事例と合わせて今回の締めとする。

戦国武将 黒田長政-「腹を立てずの異見会」

月に数回開く異見会で、長政本人から参加者全員に「何事を言っても決して恨むな、腹を立ててもダメ」との申し渡しでスタート。長政への手厳しい批判に対し怒りの気配が見えると、ある者が「これはどういうことでございますか。怒っておられるように見えます」と諫言。すると「いやいや、心中に少しの怒りもない」と顔色を和らげる。本人にとって有意義だったらしく、「今後も異見会を毎月一回は開くように」との遺言。

米空軍-反省会

一つのミッションが終わるとチームはミス報告のため集合。他のメンバーの入室は禁止され、地位や名前は司会者、No1, No2などに置き換えられ、キャプテンでも同等扱い。誰もが失敗を認めることを促され、その背景の理由を明かすことが要求、それに対する叱責は許されず、皆で失敗の教訓から学ぶ仕組み。

松下幸之助-過去最大の危機にさらされていた松下電器を救った「熱海会議」でのフィナーレ

『(1日延長し3日目を迎えても「押し込み販売」など松下電器への苦情が止まない全国代理店の社長約200人を前に) 苦労したと言われるけれども、血の小便がでるまで苦労されたでしょうか。一昨日から皆さんはいろいろ苦情を言われました。それに対して、私は皆さん方にも悪い点があると思います。今日集まって頂いている中にも30数社は、ちゃんともうけておられる。松下電器が申している理屈に、分がないとは思えません。しかし、2日間十分言い合ったのですから、もう理屈を言うのはよそうではありませんか。よくよく考えてみますと、結局は松下が悪かった。この一言につきると思います。皆さんに対する私どものお世話の仕方が不十分でした。不況なら不況で、それをうまく切り抜ける道はあったはずです。それができなっかたのは松下電気の落ち度です。本当に申し訳ありません。

私は、今から30年近い昔のことを、ふと思い出しました。電球をつくって皆さん方に売りに行ったときのことです。「今はまだ電球については信用や品質ともに超一流ではありません。いわば幕下です。しかし、将来きっと横綱になってみせます。どうかこの電球を売って下さい。」 私は、こうお願いして参りました。いや、ほかのものならともかく電球だけは売りたくないとか、値段を安くしたら売ってあげてもいいとも言われました。私は、「いま皆さんにこれを育てて頂くことができなかったら、どうしても超一流の電球は日本には生まれない。そうお考えになって、皆さんのお力で横綱に育ててほしい」と頼んだのであります。

よし、分かった。君がそこまで決意して言うなら売ってあげようといって電球を大いに売って下さったのです。そのおかげで、松下電器の電球は世の中に出、その後も改良に改良を重ねて、今日ようやく名実ともに横綱に育ったのです。そういう並々ならぬご愛情なり、力を頂いている松下電器が、今日の体たらくは、実は申し訳ない不始末だと思うのであります。力なき姿であった時の松下電器でも、このように共鳴していただいて、ご商売をして頂いたのであります。

そういうことを考えるにつけ、今日、松下電器があるのは、本当に皆さん方のおかげです。私の方は一言も文句を言える義理はないのです。恩顧を忘れてしまって、ものを見、判断し、考えるから、そこに一つの誤りなり弱さが現れてくると思うのです。これからは、心を入れ替えて出直したいと思います。そのことをお約束します。』

素直な心について

会社の経営でも何でも、素直な心で見るということが極めて大事であると思う。そうすれば、事をやって良いか悪いかの判断というものは、自ずとついてくる。渦中にいる自分にはなかなか自分というものが分からない。だから意地になってみたり、何かにとらわれたりして、知らず知らずのうちに判断を誤ってしまう。やはり自己観照ということが大事である。特に経営者が決断するときには、この心構えが不可欠のように思うのである。「社会の全ての人々を師表と仰ぎ、大事なお得意と考え、常に礼節を重んじ、謙虚な態度で接すること」