効果的説得とは-I

成功する説得戦術とは、「送り手の観点に同意するよう受け手の志向を方向づけると同時に、そこで提唱される行為に関する否定的な思考を妨げ、肯定的な思考を促進するもの」。簡単にいうと、「敵意を喪失させ、こっちに来たほうが得」 というような気にさせること。

今回は、社会心理学の名著、「影響力の武器」と「プロパガンダ」を基に、環境保護団体グリンピースとカルト宗教の2例に応用。その前に基本的な術を紹介。

  • 「影響力の武器」: 人々を承諾へと導く心理的要因を、返報性、コミットメント、社会的証明、好意、権威、希少性の6つにまとめた内容
  • プロパガンダ」: 説得に関わる現象やテクニックを37の節に分けて紹介

基本術

1) コミットメントと一貫性: 自分が既にしたことと一貫していたい/ していると見られたい欲求

内から自己イメージを行動に合わせようとする圧力と、外からは他人が自分に抱いているイメージに合わせようとする圧力がかかる「コミットメントと一貫性の保持」。例えば、友達に10kgダイエットするぞ! と宣言「コミットメント」することで目標を達成しようとする有限実行型。歌舞伎など伝統芸能の襲名でも、まず本人がいったん断るのは、先人らのイメージを土台にした自己と世間のものすごい重圧があるから。福山雅治というイメージが先行することについて、本人いわく、「小さな理解と大きな誤解」。

マーケティングの実例:

  • クリスマス前におもちゃメーカーは高価なおもちゃのCMを何度も流す。すると、子供にねだられた親は買ってあげると約束『コミットメント』する。実際、買いに行くと品切れ、入荷のメドも不明なので、別の同額なおもちゃを買っていく。クリスマス終了後にメーカーは品切れだったおもちゃの別バージョンのCMを流す。欲しくなった子供は親にねだるが、うんと言わない親に止めの一言、『約束したじゃない、うそつき!』。約束したことを裏切りたくない、自分の『一貫性』を保ちたい親は、なけなしのお金をはたいて買ってしまう。これらは、クリスマス後に売上が落ちることを避けたいおもちゃメーカーが、『コミットメントと一貫性』の心理を販売戦略に応用した例。品切れしたのも、メーカー側がわざと少しか卸していないから。」 このような品切れ戦略、需給バランス戦略を昔から多用してきた代表選手が任天堂
  • 敢えて記入というコミットメントをさせるのは、後日気が変わった顧客の解約を防ぐため。また、訪問販売やデパートなどで、アンケートに少しだけ答えてもらうだけですから、こんなのがあったらいいなとか教えて頂けませんか、という質問になにげなく答えていくと、お客様の要望にぴったりあった品はこういうもので、このくらいの金額になります。今回は特別セール中なので、3割引で手に入りますよ。せっかくの機会なのでいかがですか、と退路を絶たれたような感覚になる「承諾誘導」も、コミットメントの一種。

2) 誘導尋問: 思考を方向づけ、暗黙のうちに可能な回答の範囲を限定

ある鎮痛剤のCM。W, X, Y, Z と4つのブランドが並べられていて、アナウンサーが尋ねる。

  • Q1: 「4つの内、飲みやすい特殊な容器に入っているのは?」-> ブランドZが画面から消える
  • Q2: 「胃にやさしいのは?」-> ブランドYが消える
  • Q3: 「最も強力な鎮痛効果は?」-> ブランドXが消える
  • A: 「あなたが選ぶのは、ブランドWです」

胃がむかついていて、頭が割れそうなくらい痛いなら、容器なんかよりこの二つを効果的に解決してくれるブランドZを選ぶかもしれない。あるいは、質問の順番を入れ変えれば、W以外のブランドが残る可能性が高い。このように誘導的な質問は、我々の思考を方向づけ、暗黙のうちに可能な回答の範囲を限定させる。受けて側と送り手の論理思考 (選択の順序) は異なる場合が多いが、ただぼーっと聞くことが多いCM、その中で多用される誘導的質問には、従順にさせる力がある。