コミュニケーション「聴く力・伝える力」-II

コミュニケーションの誕生

1) 視細胞の発達: クリアな視力 + 色別力

アフリカの熱帯雨林で生き延びた霊長類に起こった進化が、フォベアによる高い視力の獲得。フォベアは角膜の中で視細胞が集中している所で、その発達によりクリアな視力と色別力 (哺乳類は色覚細胞を2色しか持っていないため、光の3原色のうち青と緑しか判別できないが、昼行性の霊長類だけは3色性の色覚を獲得) を手に入れた。それにより、果実のない乾季でも消化しやすく栄養豊富な若葉を識別することで残り少ない食物を採取できた。

2) 表情: 共に生きる能力

ゴリラやチンパンジーなど真猿類を除くと、大半の動物にはほとんど表情がない。それは顔の下にある表情筋が未発達で、複雑で豊かな表情を生み出せないから。群れの中では、無益な争いを避けるため表情を通してコミュニケーションを図った。それを可能にしたのが、相手の多様な表情を識別できる高い視力。

ではなぜ群れたのか。馬などの草食動物は、目が顔の真横にあるので340度くらいの広い視野を持つ。一方、190度程の視野しかない霊長類は、ピンポイント的な視野の進化と引き換えに、天敵の危険をすばやく察知する広い視野を失った。樹幹という密林の隣り合う枝葉と枝葉が繋がりあった樹上空間で生活していた類人猿にとって、空から飛来する天敵から身を守る術が群れること。視野が狭くなったことに対応するため、群れをつくって仲間と共に生きていく道を選んだ。

表情は、群れの中でうまく生きていくために進化してきた。そして、表情の進化によって、社会もまた複雑にそして巨大に進化してきた。淘汰の基準を「共に生きる能力」に置いたともいえる。

3) 人間だけの目の進化: 白目

DNAの98%が同じといわれるチンパンジーとの大きな違いの一つが白目。瞳の色は様々だが、白目の部分は人種に限らずみな白い。一方、人以外の霊長類は、瞳に近い色をしている。それは、白目が生存競争で不利に働くと考えられているから。白目があると、向いている方向が分かりやすく、敵から身を守るとき、あるいは攻撃するとき、相手に視線が悟られる。淘汰の基準が弱肉強食にある世界では、白目の進化は不向き。それなのになぜ?

人が白目を発達させたのは、群れが争いの少ない平和な社会に暮らすようになってからと考えられている。白目があることで、表情はより豊かになり、表情によるコミュニケーションは一段と進化した。戦いに不利な白目を逆手にとって、戦い回避のために生み出された戦略ともいえる。

例えば、「お前を見てるぞ、これ以上やると痛い目にあうぞ!」と牽制して戦いを避けたり、「あなたを見ておりません、攻撃する気は全くございません」と知らせて戦いを避ける。つまり、「高度なコミュニケーションが必要-> 感情を伝えることが必要-> 表情が必要-> 白目が必要」というロジック。

確かに幼児を叱るときは、優れた言葉よりも目線を同じ高さにして怒っている目を見せる方が効果的。彼らは本能的に相手の目を見てコミュニケーションをするから。一方で、欧米人の表情を識別するテストを受けたものの、結果はまるでダメだった経験がある。少しの表情で様々な感情を表現できるのが人間で、それを識別する能力を持っているのも人間ということかな。