Branded Ingredient Strategy


1980年代、Coca-Cola と PepsiCo 急成長のカギを担った低カロリー炭酸飲料、その甘味料アスパルテーム(日本ではパルスイート)が今回の主な題材。特許を保有するニュートラ・スウィート社(後に化学大手モンサント傘下へ)が、いかにして商品全体の一部に過ぎない素材の存在力を高めていったのか? 実は、この戦略こそ「Intel Inside」キャンペーンの原型。

小よく大を制す

  • 名義借り: Coke と PepsiCoニュートラ・スウィートを採用-> 知名度・実績ゼロの会社にとって巨大ブランドの名義を借りて、自社製品をアピールする絶好の機会
  • 相乗り宣伝: Coke と PepsiCoアスパルテームでなく、ニュートラ・スウィートという商標で自社製品に掲載-> 特許が切れるまで消費者の脳裏に浸透する時間を確保-> 特許が切れた後も、確立されたニュートラ・スウィートという安心ブランドが類似製品との差別化に寄与-> 高い参入障壁を構築
  • 囚人のジレンマ: 特許が切れた後、Coke と PepsiCo いずれかが他社類似製品に乗り換えた場合、相手からは格好の標的-> e.g. PepsiCo はCoke とは違って安心ブランドのニュートラ・スウィートを使っていると差別化宣伝が可能-> 同じ品質なら低価格の他社製品に乗り換えた方がメリットをもたらすはずなのに、お互い同時に乗り換えない限りそのメリットを享受できないジレンマ

特許期間中に、業界の主要プレーヤー双方にとって重要な存在になったこと、彼らの威厳を活用して「虎の威を借る狐」作戦を展開し、自らのブランドイメージを消費者に浸透させたことが、ニュートラ・スウィート社の勝因。この「小よく大を制す」柔道戦略を真似たと言われるが、「Intel Inside」キャンペーン*1。CPU というパーツを消費者に浸透させ、PC 全体の中でその相対価値を高め、自らの分け前を増やすことに成功。

大よく無数の小を活用

化学大手デュポン社は、自社開発素材・商標を無数の無名会社に提供。彼らがデュポンという名の安心ブランドをテコに、調理器具「テフロン」やアウトドア関連素材「ゴアテック」などを、様々な価格帯で消費者に提示。つまり、デュポン製品・ブランドを隅々にまで拡大してくれる補完者の役割。消費者にとっての優先順位は、メーカーではなく、テフロンやゴアテックなどの素材、次に価格。仮にあるメーカー製品に欠陥があっても、素材面への影響はゼロに等しく、リスクも限定的。自らの信用力を供与して、ネットワーク価値を生み出し、リスクを最小限に留める上記とは逆の「大よく無数の小を活用」戦略。

*1:PCメーカーへの直接アプローチによる宣伝費用負担 (取引高3%) と、エンドユーザーへの間接アプローチによる「ダブルループ戦略」が奏功。PC内部のことは何も分からない素人ユーザーと、熟知しているアキバ系ユーザーに対し、インテルMPUが内臓されたPCは高い品質と性能を保証すると間接的に訴え、高価な商品を購入する際に働くブランドが与える安心感によって、一般ユーザーにインテルの指名買いをさせる効果を得た。