言志四録

人間学シリーズの第2弾は、佐藤一斎の「言志四録」。その中でも何度も登場する「志」を中心に要約。

志とは

『人は須らく自らを省察(せいさつ)すべし。「天何の故にか我が身を出生し、我をして果たして何の用にか供せしむる。我れ既に天の物なれば、必ず天の役あり。天の役供せざれば、天の咎(とが)必ず至らむ。」 省察して此に到れば、則ち我が身の苟(いやし)くも生くべからざるを知る。』

人は誰しも次のことを反省し考察してみる必要がある。「天はなぜ自分をこの世に生み出し、何をさせようとしているのか。この身は天から授かったものだから、必ずや天職というものがあるはず。だからこの天職を果たさなければ天罰を受けることになる。」 ここまで反省し深く考えると、漠然と生きているだけではダメだと知るだろう。

『我より前なる者は、千古万古にして、我より後なる者は、千世万世なり。たとえ我れ寿を保つこと百年なりとも、また一呼吸の間のみ。今幸に生れて人たり。こい願わくは人たるを成して終らん。これのみ。本願ここに在り。』

この世は幾千万年を経て、今後も幾千万年続くであろうか。そういう中で、仮に百年生きても、宇宙全体の寿命からみれば、それはほんの一瞬にすぎない。いま人に生まれた幸せを考えて、世のためにこういう事をしたという実感を持てたなら、何とすばらしい人生になるだろう。世のため役に立ちたい。私の願いはこれしかない。

『立志の立の字は、豎立(じゅりつ)、標置(ひょうち)、不動(ふどう)の三義を兼(か)ぬ。』

立志の「立」という字は、まっすぐに立つという「豎立」、目標を高く持つという「標置」、凛として動かないという「不動」の三つの意義を兼ねている。

孔子の「志」とは

孔子子路と一番弟子の顔淵に向かって、「どうだ、お前たち、それぞれ自分の希望(志)を言ってごらん」

  • 子路: 「自分の馬車、いい着物や毛皮を友達と共有し、それらが傷んでも気にしない、そういう(友情に厚い)人間になりたい」
  • 顔淵: 「私は善いことをして傲らず、人に苦労を押しつけて迷惑をかけたりしない。そういう人になりたい」
  • 孔子: 「年寄りには安心され、友達には信用され、若者には慕われたい」

孔子の「志」とは、自分よりも目上の人、同輩、目下の人にも「ほっとした感じ」を与える。「あの人がいれば安心する」といわれるようになる。これが孔子の「志」であり、指導者論。

処世術

『春風を以て人に接し、秋霜を以て自ら肅(つつし)む』

人に接するときは暖かい春の心、仕事をするときは燃える夏の心、考えるときは澄んだ秋の心、自分に向かうときは厳しい冬の心

『怨(うらみ)に遠ざかるの道は、一箇の恕(じょ)の字にして、争を息(や)むるの道は、一箇の譲(じょう)の字なり』

人から怨まれないようにする方法は「恕」、思いやりの一字。争いをしない方法は「譲」、一歩下がって譲るの一字。