権力の縮図: 戦争の主導者とされる軍部とは誰?

下の図を見ながら・・・国務担当の「政府」と、軍事担当の「統帥」に明確な線引きがあった明治憲法下で、軍隊を動かす軍事権を持つ参謀本部や軍令部、そして予算の獲得など軍政権を持つ陸・海軍省、その中でも実際に軍を動かし戦略を決定する「作戦部」や、国内外の政策立案を担当する「軍務局」のこと。さらに限定すれば、作戦部の「作戦参謀」。参謀本部-作戦部の特性として、陸軍大学の成績トップ5以内、人事権は陸軍省人事局ではなく参謀次長、部屋には部員以外の立入禁止、などの特権をもつ少数精鋭の気高き超エリート集団。今後、登場してくる軍事関連の人物は、下図のどちらかに所属しているので迷ったら参照。

天皇

    • 軍政権=政府・内閣

権力の源泉は?

  • 統帥権: 陸海軍全てを指揮・統率し、軍隊を動かす軍事権、その権限は天皇のみ(陸軍大学の教育: 軍事行動、作戦、戦闘報告など全ては、議会とは無関係で、批判、疑問、報告要請にさえ応じる必要なし→「統帥権」は「統治権」より上との考えが支配)
  • 天皇の神格化: 統帥権の威厳付けに活用(天皇機関説天皇神権説)
  • 軍部大臣 現役武官制(2・26以降): 現役軍人でなければ陸海大臣になれない→軍が気に食わなければ大臣を出さない→組閣は無理→内閣の命運を握る
  • テロの恐怖(2・26以降): 軍の強硬な発言の裏にある暴力=暗黙の言論統制

陸軍大学での徹底した「統帥」教育の下、とりわけ陸軍は「統帥権の干渉」と「天皇の神格化」を錦の御旗として掲げ、「軍部大臣 現役武官制」という名の合法的暴力をふるい、さらに非合法なテロ脅迫との合わせ技で抵抗勢力を無力化させ、政治の上に君臨する強大な権限を構築。「統帥権の独立」は、皮肉にも明治憲法の基になったプロシア/ドイツ憲法どおりで、いずれも国を滅ぼすことになる。

具体例: 軍部の影響力

国策決定プロセス

起案(軍部の中堅官僚)→部局長会議→大本営政策連絡会議→御前会議
御前会議は決定事項を追認する場にすぎず、「大本営政策連絡会議」が実質上の国策決定の最高機関。そのメンバーは、大本営側(統帥権)=参謀総長+軍令部長、政府側(統治権)=首相+外相+陸相+海相+蔵相+企画院総裁+枢密院議長など。その中で大本営側は「統帥権の干渉」を武器に、軍事作戦・行動などを一切漏らさず、独断で決定。例えば、開戦前に東郷外相が開戦日を聞いても、大本営側は「教えられない」とつっぱねたほか、開戦後も作戦を一切明らかにせず、政府側に否定されても勝手に天皇サイドから判をもらって勅令として実行。実質、「軍事権(統帥権)」が「統治権」を支配する体制。

最大の転換点(権力掌握の秘密): 2・26事件の後遺症とは?

  • テロの恐怖: 大規模な組織行動(首都を一時占拠)、残虐性(虐殺された3人全ては機関銃で撃たれた後、メッタ切りにされ肉片が飛び散ったほど)、その後の脅し(テロ未遂事件多発)
  • 権力の下降(下克上): テロの脅威に弱腰の上層部に対し、中堅幕僚が事件処理の主導権を掌握
  • 軍部大臣 現役武官制の復活: 2・26事件への関与が疑われた予備役武官を、軍部大臣に就かせないようにする目的だったが、後に陸軍が陸相を推薦しないという形で組閣をコントロール
  • 報復人事: 事件を起こした皇道派の対極にあった統制派が占拠→真っ先に反乱軍を討伐すべきと電報を打った東條英機が評価され栄達→国際的視野から対米開戦に反対した人材は左遷される土壌
  • 天皇の意思表示: 事件直後「お前達がやらぬなら朕自ら近衛師団を率いてこれを鎮圧に当たらん」と発言、その後は終戦時まで自ら意思表示することの影響力を恐れるかのように断定的発言は一切なく、語らぬ存在へ=「君臨すれども統治せず」を厳守=御前会議では口を硬く閉ざし、ただ追認のみ

2・26事件は、軍部権力の源泉と中堅幕僚暴走の要因となる権力下降の下地を生み出し、「陸軍主導」による国家体制を助長、とりわけ「暴力に対する恐怖心」が、軍人、政治家、マスコミ、言論人、国民全体の神経を麻痺させ、健全な思考回路を破壊、結果として最終防波堤となるはずの天皇からも言語を奪い、誰も止められぬまま対米開戦へと加速。