ZONE の世界-II

筋肉破壊トレーニングとは

1) 壮絶なメニュー:

(ほとんど息をせずに負荷をかけた自転車をこぐ無酸素運動トレーニングとは・・・) 全力でローラーをこぎ始めた。相当負荷が重いのか、最初から苦しそう。1分を過ぎたあたりから、苦しそうなうめき声が漏れ始めた。大腿筋が細かに震え、ケイレンしている。顔が夜叉のように変わった。目は白目を剥き始めている。ストップの掛け声で終わったものの、下半身全体の筋肉がケイレンしているため、直ぐにはローラーを降りれない。顔をハンドルにうずめながら足を地につけたと思った途端、地面をのたうち回る。のたうち回りながら嘔吐しようとするが、吐くものがない。

これが清水選手の筋肉破壊トレーニング。心拍数を生命維持の限界である220まで上げ、酸素供給を絶つことによって、筋肉を壊死。加えて、脳への酸素供給もストップさせ、人為的な脳死状態へ。最終的には、この筋肉破壊トレーニングを、1日で5クールこなす。

清水選手いわく、「筋肉の破壊だけでいうなら、何も無酸素系のトレーニングをしなくたって、強い電気ショックを与えるなどして機械的に出来ないこともないんです。しかし筋肉だけを破壊し再生させ進化させても、同時に、筋肉を支配する脳も変容させてなければ意味がない。いくら筋肉を強化しても脳の指令の限界値が低ければ、筋肉も低いレベルで留まってしまう。辛いトレーニングは脳も変容させるので、能力の限界を押し上げることになるんです」

筋肉破壊の悲鳴

清水選手いわく、「筋肉がケイレンし始めると、強烈な痛みが襲ってくるんですよ。ヤケドした傷口に塩をまかれ、その上からつねられた感じ。でも、表層的なものではなく、内側からつきあげてくる痛さ。だから、激しく叩かないとどうにも我慢できなくなる。ほら、厳寒地だと冷蔵庫の中のほうが温かく感じるじゃないですか。それと一緒ですね。

その痛みが一番辛いのは夜。痛くて眠れないんです。身体が痛みでほてっているから、身体に触れる布団の部分が熱くって眠れない。眠っていても身体が冷たいものを求めているらしく、朝に目が醒めると、壁に引っ付いて寝ていたということがよくあります。」

2) 目的: 筋肉破壊-> 再生による耐乳酸性能力向上

耐乳酸性能力が上がると、1,000mを走っているときに、500mくらいの地点でガーッと乳酸が出てきて、「痛てぇー、もうダメだ」と思っていたのが、600mまで伸び、痛みに耐えられるようになる。結果的にそれが記録につながる。

外国勢と30cmの身長差を埋めるには、それ以上のパワーが必要。そのパワーは筋繊維に比例する。しかし、欧米人に比べ日本人は遺伝的に筋繊維数が少ない。筋繊維の数は生理学上増やせないなら、筋肉を破壊し再生させることで繊維1本1本を太くすれば、面積ではかなり近づける。そうすれば、同等のパワーが生み出せるはず。

筋肉の限界より精神の限界が先にくる

あそこまで追い込むは危険だし、怖い。ブラックアウトに近い状態になるから。暗闇の中にパチパチと火花のようなものが飛ぶ。でもそういうところまで辿りつかないと脳も筋肉も変えられない。

筋肉の限界より精神の限界が先にくるので、そのリミッターを外すことが重要」。単純に力学的な負荷をかけるのではなく、内面の精神と常に対話しながら、その時の自分の能力に対して、大きな負荷がかかるトレーニングを毎日積む。「オレ、スーパーサイヤ人ですから」とおどけてみせる清水選手、まさにスーパーサイヤ人の域に達した人の片言隻句。

ロケットスタートを可能にした地を這うような低いスケーティング姿勢、その裏技とは

低い姿勢を維持している時は、胃とか腸などの内臓を肋骨の部分まで押し上げている。大腿が太いために滑っているとお腹に当たるので、姿勢はある一定以上低くできない。もっと低くしないと空気抵抗はきつくなるし、大腿はパワーの源なのでこれ以上細くしたくない。そうして思いついたのが、胃や腸を移動させてしまうこと。

方法は、内臓に食べ物が入ってない状態で、腹筋の圧力で腸を押し上げ、肺で吸って肋骨の中に仕舞い込む。内臓を上げるというのは気功の考えで、元々あったみたい。